ロシアは絶対悪なのか。シリア空爆の驚くべき「裏側」

 

ウクライナ情勢との類似点

シリア問題は、ウクライナ情勢と似ている部分があります。アサドと、2014年2月の革命で失脚したヤヌコビッチは、共に

独裁者である
反米親ロである

さらに、ウクライナのクリミア(ロシアに併合された)には、ロシアの「黒海艦隊基地」がある。つまり、「軍事的に重要」である。

同じようにシリアのタルトゥースには、ロシア海軍の拠点がある。

ロシアがクリミアを併合した一番の理由。それは、革命で政権についた親欧米派政権が、「ロシア黒海艦隊を追放し、NATO軍をクリミアに入れよう」としていたこと。

同じように反米親ロのアサド政権が崩壊し、親米傀儡政権が誕生すれば、ロシアは中東の重要な軍事拠点を失いかねない。それで、ロシアはアサド政権を守りたいのですね。

なぜ今空爆をはじめたのか? ロシアの情勢判断

シリア問題は、2011年末からつづいている。では、なぜ「今」空爆をはじめたのでしょうか?

まず、シリア問題がはじまったとき、プーチンは首相。大統領は軟弱メドベージェフでした。

2012年プーチンは大統領に返り咲いた。そして、上に書いたようなアメリカの「ウソ」を拡散することで、2013年9月に予定されていたアメリカ主導の「シリア戦争」を止めました。ちゃんと「シリア情勢」に関与しているわけです。

2013年11月、ウクライナでデモが活発になってきた。

2014年2月、ウクライナで革命が起こり、親ロシア・ヤヌコビッチ政権が倒れた。同3月、ロシアはクリミアを併合。プーチンは、アメリカの「敵ナンバーワン」になり、厳しい制裁を受けることになった。それで、シリアに関与する余裕がなくなった。

しかし、2015年になってから状況が変わってきます。まず2月、ウクライナで「停戦合意」がなり、今も継続中。3月、「AIIB事件」が起こり、中国がアメリカ最大の敵となった。5月、米中は「南シナ海埋め立て問題」で対立。「米中軍事衝突」の懸念も聞かれるようになる。

同じ5月、米ケリー国務長官はロシアを訪問。「ウクライナの停戦合意が維持されれば、『制裁解除』もありえる!」と発言。

7月、アメリカとロシアは、「イラン核問題」を解決。9月末、習近平訪米するも、まったく歓迎されず。米中の対立が深刻であることが明らかに。

こういう状況の中で、ロシアは、

  1. アメリカは中国との戦いで忙しく、シリア問題に本気で取り組めないだろう。
  2. 欧州は、シリアからの「大量難民問題」で苦しんでおり、批判はしても、ロシアのシリア介入を歓迎するだろう。

皆さんご存知のように、欧州は今、シリアなどからの大量難民問題で苦しんでいます。なぜ、彼らは欧州に逃げてくるのか?

1つはシリアで内戦がつづいているから。

もう1つは、恐怖のイスラム国が勢力を伸ばしているから。

結局難民の流れを止める一番の方法は、「シリアを安定させること」しかない。でも、彼らはアメリカと一緒に「反アサド」ということになっている。だから、「アサドを支援してシリアを安定させる」という選択肢がとりにくい。

それで、口ではロシアの空爆に反対しつつも、本音では「プーチンがんばれ!」ということなのです。

というわけで、アメリカも欧州も、ロシアを非難する。そうなのですが、「実際何もできやしない」とプーチンは読んで空爆を実施した。

何度も書きますが、目的は「反米親ロ」の「アサド政権を守ること」。だから、空爆のターゲットは、「イスラム国」と「反アサド派」なのです。

アメリカメディアは、ロシアが「反アサド派を空爆した!」怒っている。アメリカは、「反アサド派」を支援しているので、怒るのは当然ですね。

しかし、上に挙げた2つの「仰天情報」を見てもわかるように、単純に、「アメリカは絶対善」「ロシアは絶対悪」ともいえません。

ただ、「事実はこういうことなのだな」と認識しておきましょう。

image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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