瀕死のイギリス。EUよりも先に「UK連合王国」がバラバラの危機へ

 

シティの金融機能も喪失?

第4に、英国として一番守らなければならない経済権益であるシティの国際金融機能がかえって損なわれかねないという矛盾である。

周知のようにロンドンには、約250の外国銀行が法人や支店を置き、約16万人が働いている。英語環境とそれ故に世界から集まる金融機関やそれを支える優秀な人材、国際的な金融実務を知り尽くした会計・法律事務所のサービス、金融業を優遇する法律的な制度の整備、世界と欧州のハブとしての交通・通信インフラ、一流のオフィスと住宅の十分な準備、優れたレストランはじめ文化的な充実──などが世界一の金融センターを支える条件となってきたが、それも、英国がEUの一員であるが故の「シングルパスポート制度の適用があればこそ活かされたのであって、もしそれが失われることになれば、すべての金融機関は少なくとも従業員の一部をEUのどこかの都市に移さざるを得なくなる。同制度は、英国で金融業の免許を取得すればEUのどの国でも営業することができる仕組みで、国際金融機関がロンドンを本拠にEUに事業を展開するのに便利だった。

ジェームズ・スチュワートが7月2日付NYタイムズに書いているところでは、ある大手金融機関の幹部は「大陸に異動させる社員は10~40%になる。業界全体では数十万の従業員とその家族がいて、彼らはみな百万長者だ」と、その影響の大きさを憂慮している。

人だけでなく、シティの重要な機能も低下もしくは喪失することになろう。ユーロ建て取引の決済機能は以前から圧倒的にロンドンに集中しており、それをやっかんだ欧州中央銀行が11年、「ユーロ建て取引の決済はユーロ圏内で行う」という方針を打ち出した時には、英国が「欧州単一市場の理念に反する」と欧州司法裁判所に提訴して阻止した。今回、英国の方からその「単一市場から撤退する決定をした以上、この権益を守りきることは出来ない。ユーロ建て債券の発行や、世界の4割を超えるシェアを持つ外国為替取引でも、従来のようなトップの座を維持するのは難しい。

スチュワートが、上述のようなシティを支えてきた好条件を点数化して「引っ越すとすればどこがいいか」のランキングを算出しているが、第1位はアムステルダム(55ポイント)、以下フランクフルト(54)、ウィーン(51)、ダブリン(50)、パリ(43)、ルクセンブルク(40)などが続く。

金融は英国のGDPの約1割を締めており、その目に見えた縮小が新しい英国病の発症の引き金となりそうである。

image by: Ms Jane Campbell / Shutterstock.com

 

高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋
著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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