物忘れだけが症状ではない
ただ、この「性格変化」が、認知症のサインであることも少なくない。認知症の症状と言えば、物忘れや日時がわからなくなるなどの症状を思いつくが、そればかりではない。認知症には、アルツハイマー型認知症、脳血管型認知症などあるが、もっとも「自分の異常性」に気がつかない、あるいは病識がないタイプは、前頭側頭型認知症である。物忘れよりも、病識低下が主症状と言ってもよい。
たとえば前頭葉だけが萎縮する前頭側頭型認知症は、頭部MRIなどで前頭葉のはっきりした脳萎縮が確認されれば、診断が可能である。しかし前頭側頭型認知症ではないにせよ、「キレる高齢者」は、前頭葉機能が低下していると見なしてわたしは構わないと思う。一昔前ののんびりした時代ならば耐えられた前頭葉が、慌ただしい現代社会の動きに耐えられず、「キレる」という形で悲鳴を上げているのかもしれない。
しかし、ここで考えてほしい。かりに認知症の患者が「自分の異常性」に対する認識、つまり病識を持ち続けたならば、どんなに辛酸な老後になるだろうか。自分が少しずつ日常生活に必要な機能を失い続け、家族や他人に迷惑をかけていく。それは、子供の病気のように回復することは決してなく、自分らしさを失う恐怖と絶望があるのみである。認知症の人たちは、「自分の異常性」に気がつかないことも、余生を考える上でも非常に大切なことではないだろうか。
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