引きこもりで精神崩壊。哲学者・小川仁志が陥った自堕落生活

2018.03.19
 

お金はもうありませんあるのは自由だけです。しかもきつい自由です。ここで初めて自由の重さの意味を知りました。前回書いたサルトルのいう自由の刑です。自由は責任を伴うということです。東京でバイトだけで生きていくのは大変ですし、何より時間がなくなってしまうので、やむなく生活のグレードを下げることにしました。田無市(今の西東京市)の奥地に「みどり荘」というボロアパートを探し、そこに引っ越しました。引っ越しを手伝ってくれた旧友は、「これは生活の原点やなぁ」といっていたのを覚えています。

風呂とトイレは独立していましたが、4畳半一間の隙間だらけの部屋です。風呂はシャワーなどなく、かといって毎日沸かすのはもったいないので、ヤカンのお湯を水でぬるくして体の一部だけを洗うことにしました。夜明かりを消すと、ゴキブリが動き出します。さすがに服に入ってきたときは驚きましたが、そのうち慣れてしまいました。

色んなセールスの人が来るたび、私のボロボロの姿を見て気の毒そうな目をして帰って行くようになりました。なにしろ洗濯はめったにしない、散髪もいかない、ヒゲぼうぼうのロビンソンクルーソーみたいな状態になっていましたから。バイトは割がいいので、夜の肉体労働がメインになっていきました。そもそも朝起きられなくなっていたのです。

そのうちバイトも極力減らし、家に引きこもるようになりました。いい大学を出て、いい会社で働いてたのに、今はただのフリーターだと噂されているような気がして、人に会うのが怖くなってしまったのです。唯一幸せを感じたのは、朝通勤ラッシュの時間に寝ていられることだけでした。もう最悪です。そうこうしているうちに不規則生活と栄養不足がたたり、体に不調をきたし始めます。ひどい片頭痛が続きついには腸から出血が。病院に行くと、大腸がんかもしれないといわれました。

精密検査の結果が出るまでは、茫然自失でした。見栄だけのつまらない私の人生はそれにふさわしくつまらない終わり方をするものだと、妙に冷めていました。おそらくもう人生が嫌になっていたのでしょう。自殺が頭をよぎったこともありました。精神的にはかなり危うい状況でした。

そういえば、クーラー目当てに何時間も牛丼屋に居座ったり、公園で人を見ていたり、今思うと完全に不審者でした。セールスマンを部屋に入れてギターを教えてあげたこともありました。向こうも少しでもお金を取れると思ったのかよくわかりませんが、二人で尾崎豊の歌を熱唱私が涙を流しながら歌っているのを見て、怖くなったのかその人は二度と来なくなりましたが。

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