陸に上がったからこそ備わった種々の機能
脊椎動物が陸上にあがる際には、このような海水の環境を体の内部環境へと持ち込んで上陸してきたのです。しかし、陸上は海中とはまったく環境が違います。例えば、海中の何倍もの重力に耐えなくてはなりませんし、水中に比べて温度差も激しいです。
また、常に体が乾燥してしまうという危険にさらされ、海水と似た血中のイオン組成を維持するのも陸上では相当な苦労となります。いわば海水の入った水槽の中で自分という生物を飼育しているようなものですから、その海水をいかに維持していくかという問題を常に抱えているわけです。これは海水魚を水槽で飼育する事を考えるとイメージしやすいかもしれません。
それを人の体として維持していくのに必要不可欠なものが、内分泌器官やそこから分泌されるホルモンなどです。つまり、一定の状態を維持するというホメオスタシスの仕組みの発達と、陸上での生活は一体と言えるのです。
例えば、水中にいる魚類には存在せず、陸上の生き物だけに存在する副甲状腺という内分泌器官があります。この器官は魚類にはなく両生類になって初めて出現してくるのですが、両生類でもサンショウウオのように一生を水中で過ごす生き物には存在しないのです。つまり、陸上にあがるからこそ必要となってきた器官と言えます。
この副甲状腺からは血中のカルシウム濃度を上げるためにホルモンが分泌されます。これは陸上の生き物が、骨の形成が水中以上に重要になるためより多くのカルシウムを使う事になり、そのため水中の生き物よりもカルシウム不足に陥りやすく、常にカルシウムの濃度を上げるホルモンが必要になったからです。
カルシウムは骨の形成だけではなく、神経の興奮であるとか、筋肉の収縮、血液の凝固にも必要不可欠なミネラルです。そのため骨や歯といった中に大量に貯蔵されており、血中のカルシウム濃度が低下してくるとこの副甲状腺ホルモンによって骨に含まれるカルシウムを溶かし出して血中カルシウム濃度を一定に保つようにしているのです。神経、筋肉、血液凝固と陸上ならではの必要性が故に、副甲状腺という器官とそこから分泌されるホルモンが生まれてきたのでしょう。
他にも魚類が持っているホルモンに別の機能が付加されていくというケースもあります。下垂体後葉ホルモンは腎臓の糸球体にはたらいて尿の量を減らすという働きをしますが、何故だかこの働きをもつのは脊椎動物の下垂体後葉ホルモンだけなのです。
陸上では水分の重要度が水中よりもグッとあがりますから、尿の量を減らして体内の水分をなるべく減らさないという仕組みを完成させているのでしょう。こんな進化を考えると、この数ヶ月が少しだけ小さく感じられるのではないでしょうか。
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