無視された少女の心。母との同居を拒む娘に裁判所が出した無情な勧告

 

突然の強制執行

地裁執行部の執行官、ドアの開錠技術者、相手方弁護士を含めたおよそ7、8人の一団が予告無く夜にAさんと父親が住むマンションに現れ、粛々と執行を行おうとしたが、「わたしをまきこまないで」と泣きながら訴えるAさんの怯える様子から、同行した児童心理の専門家がAさんと2人で聞き取りを行った。一方執行官らは父親と協議をしたのだ。

執行官らはAさんが自らの強い意志で父親と一緒に暮らすことを望んでいることを確認し、執行不能であるとした。

こうした決定は私が知る限り極めて稀だと思われる。一般に若年層の女子児童については、方程式のように母親に親権や監護権が渡る。また、強制執行までいって、この執行が不能だと結論付けられるケースはあまり聞いたことが無い。

しかし、まだ話は続く。

父親 「執行以後、娘の様子は落ち着きませんでした。私も精神的にきつい状況でしたから元裁判官だという弁護士さんに相談に行ったのです。すると、地裁に執行不能に関する調書があるはずだから見てきたらよい、そこに裁判所がどう考えているかが記されているはずとアドバイスされました。こうしたケースは稀で、今更、妻側に監護権を渡せと言い出すのはちょっと考えられないと教えてもらい、離婚手続きをした方がいいと言われました」

父親が書類を確認すると、もう執行はしないのだということがわかる文面があったそうだ。そこで、今後将来に渡ってこうしたことが起きないようにと思って離婚手続きに入ったそうだ。

しかし、離婚の手続きは裁判、調停、審判と泥沼状態になっていった。

Aさんは裁判官に手紙を書いて、自分は父親と暮らしたいと主張しようとしたが、手紙すら見てもらえなかったそうだ。

出た結果は、親権は父親、監護権は母親で和解しなさいというものであった。もしも、抵抗するようであれば、父親から親権も取り上げると言われたのだと父親は話してくれた。

父親 「ぎりぎりの決断です。親権があっても一緒には暮らせない、今までの経緯から、面会交渉をする事すら適当な理由をつけられて反故されるだろうと思いました。それでも、全て取り上げられてしまうよりかはマシかと思ったのです」

その実、父親と一緒に暮らしている間、父親は母親の悪口を一切言わなかったし、面会交渉も母親への家にお泊りすることも全て約束通りにしていた。

Aさん 「お母さんは嫌いじゃないです。でも一緒に暮らすのは嫌です」

「なぜ一緒に暮らすのは嫌なの?」と質問すると、その第一声は「怖い」と言い、俯いてしまった。そこで、「そういう気持ちはお母さんには伝えたの?」と問うと、「うん」と答えた。

誘導的にならないように聞き取ると、母親と居る時は常に不安なんだそうだ。この人といるとお父さんのところに帰れなくなってしまうかもしれないし、自由に行き来が許されている父親の元の自由を壊されたくないという心理が強くあると感じた。

裁判所での和解に基づき、Aさんは2020年3月末に母親の家で暮らすことになったが、Aさんはこの時の気持ちを私にこう言った。

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