「いじめ放置王国」佐賀県某市の異常。杜撰な第三者委の選定基準

 

佐賀県のある市のとんでもない条例

まずは、いじめ防止対策推進法の始まりを見直してみると、大々的に報じられた凄惨な大津のいじめ事件がきっかけとなっている。それまで、学校任せだったいじめをしっかりと法整備することで、いじめ問題に歯止めをかけようとしたのだ。だから、いじめ法の大前提は、「被害者の立場に立って」になっている。

立法は議員立法であり、勉強会などを重ねて海外のいじめ法を研究してできたものである。施行となって、多くの抜け道や被害者側やご遺族側の不満はあったし、改正の指摘も多くあったが、そもそも初めの段階から完璧な法はなかろう。

実施と運用を重ね、多くの知恵が集まって、様々な人の汗や涙を重ねて法とはより実態に適したものへとなっていくが、いじめ法は改正期に校長会の強い反発などがあり、結局改正できなかった。

つまり、いじめ法に関しては、立法から運用面で問題などの改正が進まないまま、一種の妨害勢力があって歪んだ解釈が横行している状態であると言える。

また、いじめ法は各自治体でいじめ条例を作り運用することになっている(条例がまだないという地域もありそうだが…)。つまり、いじめ防止対策推進法は各地域で条例ができていて、その中で運用のルールなどを規則にして決めるが、福島市の前例のように、いじめ法といじめ条例の差異が生じているのだ。

佐賀県のある市でも条例があるが、これを見ると、いわゆる第三者委員会についての記載は下記のようになっている。

いじめ問題専門委員会

 

(設置)

第10条法第14条第3項及び第28条第1項の規定により、〇〇市教育委員会(以下「教育委員会」という。)に○○市いじめ問題専門委員会(以下「専門委員会」という。)を置く。

 

(所掌事務)

第11条専門委員会は、教育委員会の諮問に応じ、次に掲げる事務をつかさどる。

 

  1.  いじめの防止、いじめの早期発見及びいじめへの対処のための対策を実効的に行うための専門的知見に基づいて審議を行うこと。
  2. 市内小・中学校における法第24条に規定する事案について調査すること。
  3. 市内小・中学校における法第28条第1項に規定する重大事態について調査すること。

 

(組織)

第12条 専門委員会は、委員10名以内で組織する。

2 委員は、次の各号に掲げる者のうちから教育委員会が委嘱する。

 

  1. 学識経験のある者
  2. 市内小・中学校に在籍する児童・生徒の保護者
  3. 関係行政機関の職 

法律の細かな解釈はややこしくなるので省くが、簡単に言えば、「法第28条第1項」というのが第三者委員会が行う重大事態の調査のことで、これに当たる委員会の構成メンバーについて定めたということである。

その構成メンバーが最も下部に示した3つの属性になっているが、ここには、

  1. 学識経験者
  2. 現在の保護者、
  3. 大まかに市の職員

となっている。

ところが、文部科学省の重大事態いじめガイドラインには下記のように第三者委員会を構成するよう明確に記されているのである。

いじめ重大事態の調査に関するガイドライン・文部科学省より抜粋

いじめ重大事態の調査に関するガイドライン・文部科学省より抜粋

つまり国の基準では、「法の専門家」で事実認定に長けた弁護士、医師から精神科医、学識経験者、心理や福祉の専門家など、いじめ問題で中心的な課題となる問題に対して専門的な知識や技能、経験を有する専門家で調査委員会を構成するように要請しているのだ。

佐賀県の○○市の条例は、法の専門家の記載がなく、心や福祉、精神の専門家の記載がないわけだ。

多くのケースで、学識経験者は元校長など教員が当たるが、PTAの会長を歴任している人もその範疇にある。

また、この市の条例では、保護者の代表が委員になるという記載があるが、そもそも保護者の代表にいじめの専門的な関連知識や経験があるのだろうか。

職業柄たまたま専門知識や経験を有しているという保護者もいようが、それは偶然の産物に過ぎないだろう。

また、場合によっては、市教育委員会の対応についても調べる必要がある第三者委員会にとって、市の職員や関連行政官が関わっては、その時点で第三者性は不存在とするのが一般的であろう。

事実運用では弁護士などの専門家は第三者委員会に入ったことがあるというが、それでは、条例の記載の何に当たるのか不明瞭になっており、この条例は設置段階ですでに瑕疵があり、欠陥条例と言わざるを得ないであろう。

しかも、こうした条例は目を覆うほど多く各地域に点在し設置されてしまっているのだ。

つまり、各地にある条例は、「いじめ法」乃至「国のガイドライン」と結果が異なる形で、いい加減に設置され、いじめ問題が起きると勝手に発動され、勝手に有効に機能させられており、被害者やご遺族だけがある種の瑕疵条例の被害者になっているのだ。

これはハッキリ言って、地方議会の怠慢と各地の教育委員会が如何に「いじめ」を軽んじ、他人事に放置した結果であろう。

また、事態を把握しつつも、本腰を入れない国と文部科学省の怠慢であるとも言えるだろう。

もちろん、必死で動いている人もいるのを知っているので、批判だけになってしまうのは避けたいところではあるが、結果はどうしても追いついてこないし、ここで手をこまねいている間にも今まさに命を絶とうとする子は後を絶たないのである。

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