マスクの歴史 ファッションアイテムとして日本に定着
近代のマスクの原形は、1836年のイギリスに誕生(*5)。
もとは、呼吸器を患う人のために開発されたもので、鼻と口を布で覆い、布の中に格子状の金属が入った構造。それを患者が着用すると、温かく湿った空気を吸うことができた。
これが日本にも輸入、1880年ごろまでに都市部で広がっていたという。ただ、現在のマスクのように「感染予防」という意味とは、少し違っていた。
当時、日本では急速に近代化が推し進められ、西洋からやって来たマスクは、“先進性”の象徴であり、あこがれの存在であった。
そのため、時代の先端を行く人たちがファッションとして着用し、防寒も兼ねた“トレンドアイテム”として、徐々に広がっていったという。
他方、19世紀末にアジアで肺ペストが流行。その対応を協議するために1899年にドイツでペスト会議が開かれた。このとき、マスクを推奨すべきか議論されたものの科学的根拠は不明とされた。
しかし1900年に、大阪で肺ペストが拡大。同年1月に地元の医師らが死亡すると、検疫官がマスクを着けるようになり、大阪ではマスクが普及。これが感染症対策のために人々がマスクを着けた初めての可能性であるという。
マスクの着用の是非以前に大事なこと 検査と病床の確保
先週の新型コロナウイルスの新規の感染者は日本が最多に(*6)。本当にマスクに感染予防効果があるのか、疑わしい。
物事には優先順位というものがある。新型コロナ対策でいうなら、第1に検査、第2に病床確保だ。残念ながら、日本ではそのどちらもが完遂できていない。
そのために結局、「誰もが目に見える形で、簡単にできる対策」であるマスクの着用をし、「安心安全」を求めるしかないのだ。
日本のPCR検査数は、先進国最低水準にとどまったまま。安倍元首相以降の歴代総理が、いくら「増やせ」と言っても、その数は一向に増えない。
無症状者にもPCR検査を行うことの議論がいまだ行われているが、どの医療の教科書を見ても、「感染源の特定」が感染症対策の基本中の基本。しかし、そのことすら、いまだにできていない。
民間ではいくらでも検査ができる体制が整っているのにもかかわらず、あくまでも保健所によるコントロールにこだわるために、検査の数が増やせないでいる。
同様に、日本は世界最多の病床数を誇るにもかかわらず、コロナ病床への転換が一向に進まない。結果、第7波を迎えてもなお、医療崩壊が続く。
本当なら、マスク着用をめぐる議論の前に我々はやるべき“議論”が多くあるはずだ。
■引用・参考文献
(*1) 西日本新聞7月22日付朝刊
(*2)「世界14ヵ国の『マスク着用率』比較、日本は突出の85%以上、欧米は1年間で大きく減少 ―2021年4月~2022年4月」トラベルボイス 2022年5月30日
(*3)「新型コロナウイルス感染症(COVID-19):マスク」WHO
(*4)「新型コロナウイルスの空気伝播に対するマスクの防御効果」東京大学医科学研究所 2020年10月21日
(*5)宇田川恵「『マスク=日本人』が世界的に浸透 なぜ外さないのか」毎日新聞 2022年6月19日
(*6)テレ朝news「先週のコロナ新規感染者 日本が世界最多に」Yahoo!ニュース 2022年7月28日
(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年7月31日号より一部抜粋・敬称略)
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