「プーチンとは戦わず」NATO加盟国から透けた“ウクライナを見捨てる”裏の思惑

 

明確に示された「NATOは露と戦わない」というメッセージ

それは別の観点から見ると「ロシアとの戦争はあくまでもウクライナの自衛のための戦争であり、ロシアによる侵略という事実を許容しないNATOとしては、ウクライナの自衛努力を最大限サポートするが、NATOはロシアと戦うことはない」という堅いメッセージに繋がります。

これは、比較的ウクライナに対してのシンパシーを抱いていると言われているストルテンベルグ事務総長も同じで、ゼレンスキー大統領とウクライナの戦いに対する支持とサポートを繰り返し強調しても、【NATOはロシアと戦わない】ことは明確に示しています。

実質的にウクライナのNATO加盟に関する議論は“無期限延期”になったことになり、ゼレンスキー大統領とウクライナ政府も明らかに不快感と失望感を表明していますが、これがNATO諸国の引いた揺るぐことのないラインだと見ています。

特にアメリカと英国、フランスが堅く、英国については、ウォレス国防相の言葉(私たちは頼めば配達してくれるAmazonではない。我々から武器弾薬が供与されていることに対して謝意がないばかりか、不満ばかりがウクライナから聞こえてくる。そこは誤解すべきではない)にもあるように、ウクライナの「もっと、もっと」という姿勢と、いつの間にか“民主主義陣営の代表”のような発言に、欧米諸国が嫌気がさしてきていることも示しています。

ゼレンスキー大統領やその周辺が繰り返し「これはロシアによる民主主義への挑戦であり、ウクライナがロシアに撒けることは民主主義の敗北を意味する」と発言して欧米諸国にさらなる支援をせがむ姿勢が、次第に欧米諸国・NATO内でウクライナ離れを引き起こしていると見ることができます。

今回、31か国の首脳が一堂に会する写真はNATOの揺るぎない結束と覚悟を表現していると言われていますが、その覚悟と確固たる姿勢は、目前のロシア・ウクライナ戦争において、決して一線を越えないという覚悟にも見えます。

ゼレンスキー大統領はその覚悟に直面し、どのようなことを感じているのか、非常に気になります。

突如「NATOの一員」というイメージを強調し始めたトルコ

三つ目は【エルドアン大統領のカメレオンぶりが発揮されたこと】です。

ロシアによるウクライナ侵攻を非難しつつも、対ロシア制裁には加わらず、地域のバランサーとしての立場を強調して、国連と共にロシア・ウクライナ間の仲介に乗り出し、黒海における食糧輸出の枠組みを作って中立的な立場を取っているかと思えば、ウクライナに無人攻撃ドローンを供与し、そのドローンが対ロシア攻撃に用いられることを許しているという、一見すれば矛盾する立場を取っています。

ロシアによるウクライナ侵攻以降、何度も“ロシアとトルコの特別の関係”を強調したかと思えば、ウクライナに寄り添う姿勢も強調し“フィクサー的な役回り”も狙っているように思われます。

トルコはNATOの正式な加盟国でありながら、ロシアのS400ミサイルを配備するという矛盾も突き通し、クルド人のAntiトルコ政府グループの扱いを巡って、フィンランドとスウェーデンに対して新規加盟問題で取引を行い、他のNATO諸国からの妥協も引き出そうとするという、なかなかの外交巧者でもあります。

これまでどっちつかずな立場を貫いていたように思うのですが、今回のNATO首脳会議に際して、急に“NATOの一員としてのトルコ”というイメージを強調し始めているように感じます。

これまで頑なにスウェーデンの新規加盟に難色を示してきたにもかかわらず、今回の首脳会談では“まだ交渉中”という但し書きは付くものの、基本的には賛同する旨を表明し、これでNATO加盟国も32か国に増える見込みとなっています。

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