「プーチンとは戦わず」NATO加盟国から透けた“ウクライナを見捨てる”裏の思惑

 

「やらせ」の見方が強まるプリゴジンの乱

その重苦しい空気を変え得る事態がプリコジンの乱だったのですが、今週に入り「乱から5日後の6月29日には、モスクワでプーチン大統領とプリコジン氏が会談しており、ワグネルの処遇と今後の戦略について議論した」と発表されたことで、やはりあの乱はset up(やらせ)だったのではないかという見方が強まってきており、「プーチン大統領とプリコジン氏は絶交するどころか、さらに協力関係を深めており、対ウクライナ戦のアップグレードを行おうとしている」という分析が出てきています。

その要素の一つが“ワグネル部隊をベラルーシに配備し、北からウクライナを攻める”という戦略と言われています。ベラルーシが用意した基地の収容人数は8,000人程度と言われていますが、実際にはワグネル部隊の半分にあたる2万5,000人程度がベラルーシにいると言われており、新しい作戦に備えているという情報も入ってきています(そして実際にこの基地にワグネルは入っていないようです)。

では“プリコジン氏は許された”のでしょうか?

これについては、まだ分かりません。ロストフナドヌーで民衆に送り出されてから、公の場に出ておらず、所在も実際にはハッキリしない中で安否も分かりませんが、もし今後、メディアに登場するようなことがあれば、新たな展開が戦局にもたらされることを意味することになるでしょう。

ただその“新しい展開”は戦略核兵器の使用は意味しません。

ウクライナが今週、しきりに主張する情報として「ワグネルがモスクワに向けての平和の行進を行う際、一部がロシアの核兵器貯蔵施設に迫り、戦術核兵器の獲得を画策した」という内容がありますが、これについては、アメリカも英国もウクライナの言い分を信じておらず、逆に「確認が取れず、かつでっち上げられた信用できない情報」と一蹴することになっています。

また、ワグネルがベラルーシ入りする前週にロシアの戦術核兵器がベラルーシに搬入され配備されたという情報がありますが、こちらについてはルカシェンコ大統領の言葉を信用するのであれば、ワグネルがこれにアクセスすることはないでしょうし、ましてや使用することもないでしょう。

このベラルーシ内の戦術核兵器は、ウクライナ攻撃用というよりは、NATOの拡大抑止とバルト三国への心理的圧力という位置づけであり、それが、ルカシェンコ大統領が言う「ベラルーシの安全保障上の措置」なのだと思われます。

ウクライナの加盟問題を取り合わなかったもう1つの理由

今週その隣国リトアニアで開催されたNATO首脳会議でも“ベラルーシ国内のロシアの戦術核兵器”についての情報が共有され、バルト三国からは懸念を示されたものの、NATOとしては「最大限の監視を行い、その動向をつぶさに把握する」ことで合意したそうです。

その理由は、NATOが過剰に反応し、何らかの追加措置をロシアおよびベラルーシに課するようなことをし、それをロシアやベラルーシがNATOの攻撃の意図と捉えるような“誤解”が起きた場合、それこそNATOが恐れるロシアとの直接戦争に発展しかねない状況に陥るという分析があるようです。

それがまたウクライナの加盟問題を取り合わなかった理由の一つでもあったようで、NATOはロシアが設定するレッドラインぎりぎりで止まって、ロシアとの戦争に引きずり込まれることを阻止しようとしていますが、果たしてロシアはどう捉えているでしょうか。

ぺスコフ大統領報道官の「追い詰められている」という発言は情報戦の一環での発言だと捉えるためそのまま信じることはないですが、実際にはNATO側の首の皮一枚の認識を共有しているようで、表向きはNATOの姿勢を非難はしても、首脳会議の邪魔はしないでおこうとしているようです。

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