「プーチンとは戦わず」NATO加盟国から透けた“ウクライナを見捨てる”裏の思惑

 

NATO首脳がウクライナに対して突き付けた難題

今回の条件は2005年以降実質上止まっている“トルコのEU加盟申請の審査再開”が含まれているようですが、NATOの欧州メンバーが、EUにトルコを迎え入れるか否かという命題と、スカンジナビア半島の5か国すべてをNATOに引き入れ、ロシアと対峙することの重要性(欧州地域の対ロシア安全保障)と天秤にかけて、どのような判断をするか、今後、見ものです(アメリカは「欧州の問題」と距離を置き、英国も「EUの加盟国ではない英国が口出しすることは差し控える」と距離を取っているのが、微妙なニュアンスを示していて面白いと感じています)。

ウクライナが生き残っていたら、将来的にNATO加盟に向けた話し合いが開始されるかもしれませんが、現時点ではNATO首脳はウクライナに対して「まずロシアとの戦いにピリオドを打ちなさい」という難題を突き付けていることから、トルコにとってのEU入りと同じくらい、ウクライナのNATO入りのハードルが高いものと考えられます。

別の見方をすると、先週号でも触れた米国のバーンズCIA長官の言葉ではないですが、「早急にロシアとの停戦協議を行え」というNATOからのメッセージとも受け取ることが出来、ウクライナにとっては、ロシアと死闘を繰り広げながら、NATOからのプレッシャーにも対応しなくてはならないという、とてもハードな状況に追い込まれている状況が、今回の首脳会議の“裏側”で表出しているように見えます。

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欧米の武器を使いこなせず苦戦のウクライナ軍

では実際にロシア・ウクライナ戦争の現状はどのようになっているのでしょうか?

6月10日に反転攻勢を本格化したウクライナ軍ですが、予想以上に苦戦していることはすでにお話ししたとおりですが、それ以上にロシア軍が実際には支配地域をじわりじわりと拡大しているという分析もあります。

ウクライナ軍による反転攻勢に備え、一旦部隊を撤退させたうえで、防衛線を強固に整備したロシア軍の作戦勝ちという説と、英国の王立研究所が最近発表したように、ロシア軍は本来NATOとの対峙の際に投入されるはずの精鋭部隊を防衛線と攻撃の最前線に投入しているという説がありますが、これはどうもEither Or(どちらか)というよりは、“どちらも”ということらしく、そこにNATO諸国から供与された最新鋭兵器を使いこなせず、ロシア側に破壊されているウクライナ軍の現実も加わり、ウクライナが苦戦を強いられることになっているようです。

それもあるのでしょうか。最近、NATO諸国からも非難が相次ぐアメリカによるクラスター爆弾のウクライナへの供与が話題になっていますが、その是非を問われたバイデン大統領が「武器が枯渇しており、我が国の兵器も不足している状況だからだ」と述べたように、供与しても次々にロシアに破壊され、いくら供与しても「もっとくれ」と要求がエスカレートするウクライナの姿勢に対して暗に不快感を示す証拠ではないかと言われています。

「F16が供与され、実戦投入されるまでウクライナが持ちこたえられるかはわからないが、かといってF16を訓練と操縦能力が不完全な状態で前倒し投入するわけにもいかない」とミリー米軍統合参謀本部議長が議会で証言していたことからも読み取れますが、ウクライナの苦戦状況と“どこまでアメリカがコミットし続けられるか”に対する苦悩がそこにはあるように思われます。

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