なぜ、書写や道徳は受験に必要な教科と比べて重要視されないのか?

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文科省によって「履修漏れ」の点検が、全国の国立大学付属学校で行われるそうです。メルマガ『「二十代で身につけたい!」教育観と仕事術』の著者で現役小学校教師の松尾英明さんは今回、学校の「一律の履修主義」について持論を述べながら、書写と道徳が重要視されていない現状について考察しています。

書写と道徳「未実施」の根本的問題を考える

全国の国立大学附属学校にて、「履修もれ」等に関する点検が文科省の指示により行われるという。自分もかつて国立大の附属小学校にお世話になった身として、他人事とは思えない。また、こういったことはこの後すぐに公立校にも降りかかってくるものである。

今回取り上げたいのは、学校の「一律の履修主義」の無理についてである。今回の履修もれ云々の方ではなく、兼ねてより問題だと思っているのが、この点である。

学校は「平等」を重んじる。学校における平等は、機会の均等という点が特に強い。たとえ公平性に欠いてでも平等性の方を重視するのが基本である。

類似した言葉は調べて明らかにして述べる必要がある。「類語例解辞典」を引いて調べると、次のような違いがある。

平等というのは、差別がなく、一様に等しいことを指す。

一方で公平というのは、判断や行動が偏っていないこと。

全員一律に等しい内容を履修すべしという考えの根底にあるものは、平等である。一方で、身に付くまで何度でも修得し直す機会を与えるべしという考えの根底にあるものは、公平である。

日本の公教育は、履修(の履歴の有無)には拘るが、修得については深く問わない。学力検査等で「主要教科」の平均点が低いことを一時的に問題にされることはあるが、だから進級させるなということはない。また受験科目と無関係のもの(=「主要」ではない教科)であれば、その点については全く問われない。件の事例における問題対処についても、あくまで「改めて履修させよ」であり、「修得させよ」ではない。

ごく簡単に言うと、「やりました」あるいは「言いました」という証拠(特に書類)があれば問題なしとみなされる。一方で「身に付きました」や「成果が出ました」については強く問われない。

 

本来、教育で大切なことは「やったかどうか」「言ったかどうか」ではなく、「身に付いたかどうか」「望ましい変化があったか」の方である。

例えば数学である。算数・数学の授業を中学校まで履修完了していても、分数の計算すらろくにできないのでは、話にならない。一方で、小学校、中学校にまともに通えていなくても、大検をとるために数学を自分で学び、身に付けている人もいる。どちらが本質的に意味があるかと問われれば、答えは明白である。

例えば、歴史である。現在、ほとんどの人が高校を出て、かなりの数の若者が大学までも卒業している。しかし、日本の歴史、特に近代史を中学レベルまででも理解できている割合が多いかと問えば、かなり疑問符がつく。(ちなみに理解しているとは、内容の暗記の話ではない。)

これは教育が修得主義ではなく、履修主義であることと無関係ではない。授業中寝ていても、何なら学校を全欠席していても「履修した」とみなされ、「修了」し「卒業」に至る。

もはや履修主義に対してすらも完全に矛盾しているが、それが現実である。この点は「ご都合主義」と言った方が正確かもしれない。

もちろん、修得主義が万能で優れているという訳ではない。例えばフランスなどでは小学校でも「身に付いていない」となれば、留年ができるらしい。一方で、留年したからといって必ずできるようになるとは限らず、そのせいで新たな問題が生まれているともきく。苦手なものは単に年をまたいでも苦手なのだから、当然といえば当然である。

バランスが大切である。「絶対履修主義」あるいは「絶対修得主義」のどちらであっても、問題が生じる。日本の、特に義務教育段階においては、一律の履修主義側に偏りすぎているきらいがある。義務教育段階が新しい学問との出会いの場と考えれば、ある程度の妥当性は認めるものの、その選択肢が狭すぎる気もする。能力がバラバラなものを一定の枠内に収めることはどう考えても不可能である。また少なくとも、全員が一律には修得しきれないであろう内容量であることは、誰の目から見ても明白である。

今回は書写と道徳の二つが槍玉に上がったが、さもありなんというところである。両方とも「受験と無関係だから」という理由については否めないだろう。他にもやることが山ほどあるとなれば、優先順位をつけてしまうだろうことは容易に想像できる。

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