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サムスンと共に沈む韓国。経済の病巣「既得権益」が国を滅ぼす要因へ肥大化=勝又壽良

成績最上位者は医学部へ

韓国の既得権益を巡る典型例は、政府の医学部定員を25年から2,000名増員する案に対して、韓国の医大教授と医師会がストライキまで行って反対運動をしている点にも表れている。

理由は、韓国人口が減少する中での医師増加が、医師の所得を減らすという「金銭問題」である。「医は仁術」でなく、露骨な「医は算術」意識を露呈した。医師という最高の知的職業の基盤が、人類の難病解決へ導くのでなく、自らの所得確保であることを恥もなく見せつけたのだ。韓国の「既得権益追求」という病巣の深さを示した。

韓国の大学入試では、成績がもっとも良い高校生が本人の適性と無関係に医学部へ進学している。1998年の通貨危機以前までは、韓国の最上位圏の学生の多数が工学や自然科学に進み、「医学部一本槍」という偏ったコースでなかったとされる。このような多様性が、韓国の産業発展に貢献した。

ところが、過去20年間に医学部集中現象が加速している。韓国で最難関とされるソール大学新入生の中で、少なからずの学生が入学と同時に「休学届け」を出している。医学部への再受験が目的とされる。医師には定年制がなく一生、働けるほかに高賃金が約束されている。これほど「おいしい職業はない」という認識になっている。

韓国全体の利益を考えれば、「医学部一択」が経済全体の発展にとって、大きなマイナスをもたらすという指摘がされている。

医療産業は、製造業と比較して内需依存である。GDP創出効果からみれば、人材が他産業にも分散した方がはるかに効果的である。医師が、患者の生命を救う尊い使命を果すことは無論である。一方、有能な人材が他産業にも配分されれば、科学技術の開発やその商用化によって、国富が創出されるのである。国家が発展するには、優秀な人材が理工系にも進学する必要がある。成績最上位の学生の大半が、医師になる国に未来はない、との極論まで出ている理由である。

医師は、生涯所得がもっとも高く定年制がない。こういう理由だけで、成績最上位者グループが揃って医学部進学を目指すのは、韓国社会の既得権益を目指す歪んだ社会構造をそのまま反映しているのだ。

サムスンへ病魔忍び込む

既得権益志向は、革新(イノベーション)に対して消極的ないし拒否的な姿勢を取る。世界半導体の雄であるサムスン電子にその影が見て取れるのだ。サムスンは現在、AI(人工知能)半導体に用いられる高帯域幅メモリー(HBM)の開発で苦戦している。

HBMは、「ベースダイ」と呼ばれる枠にDRAMを何重にも積み重ねる構造である。ハンバーガーが、ハム・野菜・肉などを幾重にも積み重ねているようなものと説明されている。現在、DRAMとベースダイを韓国のSKハイニックスがすべて生産し、台湾のTSMCがそれを受け取り、他の部品と組み合わせてパッケージング(封止)した後、エヌビディア(NVIDIA)に納品している。こうした過程で、AI半導体が生産されている。エヌビディアは、AI半導体で圧倒的なシェアを誇っているのだ。

HBMは、もともとサムスンが開発に着手したものである。だが、将来性がないとして2019年に開発を中止したので、関係者はSKハイニックスへ転職して完成させた経緯がある。サムスンは,この時点でAI半導体の将来性に気付かなかったという致命的なミスを犯した。当時のサムスンは、メモリー半導体で高利潤を上げていた。既得権益に胡座をかいていた、と言われても弁解できないのだ。

逃した魚は大きかった。サムスンは、HBM開発で未だにエヌビディアから「合格」のサインが出ないという状況である。

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