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日産、なぜ経営統合が避けられない状況に?ホンダにメリットは?真相と両社の株主が持つべき視点=栫井駿介

今回は日産についてです。日産はホンダとの経営統合が報道されていますが、なぜ日産はこのような状況になってしまったのかということと、これらの会社が今後どうなっていくのかということを、当社(つばめ投資顧問)の佐々木アナリストと元村アナリストとディスカッションしてみたいと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

日産の状況はそんなに悪い?

栫井:日産、あるいはホンダについて、2人は何か気になることはありますか?

佐々木:そもそも日産の業績が悪いとニュースでは言われていますが、本当にそこまで悪いんですか?

栫井:足元では確かに悪いですね。業績予想を下方修正して、2025年3月期は赤字なのではないかという報道が出ています。

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出典:マネックス証券

栫井:ただ、そこまで悪いかというとそういうわけでもなく、去年までは一応利益を出していましたし、自己資本比率は30%あり、資本については問題ありません。一方で足元では(特にアメリカで)車が売れていないという話があり、それも事実だと思いますが、全く売れないというわけでもなく、売上はある程度たちますし、売上があるということはそれなりにお金が入ってくることになります。在庫が溜まっているわけでもなく、一部で言われているほどすぐに潰れるとは考え難いです。

佐々木:すぐに潰れるほど悪いわけではないということですね。

栫井:ただ、すぐに潰れることはないにしても状況が悪いことも確かです。株価は未来のことを織り込むので、日産がこれからどうやって自動車を売っていくのかということが重要です。

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栫井:日産の売上の半分くらいはアメリカが占めていますが、「ブランド力ランキング2023」では、トヨタやホンダ、スバル、マツダが上位に入る中で、日産はブランド力が落ちてしまっています。なぜここまでブランド力が落ちてしまったのかというと、なんとかたくさんの車を売ろうとして「販売奨励金」というものを出しているんです。

佐々木:「マーケティングコスト」と計上されるような、販売のための費用ですよね。

栫井:新車を買う時に値引き交渉を行うことがありますが、お店としても“ここまでは値下げできる”というものがあって、その値引き分を日産がメーカー側として補充していたというものが「販売奨励金」になります。販売奨励金を多く出したことによって、日産の車が値引きの効く安物だという印象を与えてしまっている部分が間違いなくあります。

佐々木:なぜ値引きをしないといけない状況になっているのでしょうか。

栫井:これはけっこう根深い問題だと思っていて、4年前までのゴーン政権の後遺症をずっと引きずっているんですよ。ゴーン氏が掲げたのは、グループで800万台というほどとにかくたくさんの車を売るということを至上命題に掲げていました。台数を売ろうと思ったら値下げをする必要があります。値下げの結果確かに販売台数は稼げましたが、利益が出ないという状況が続きました。これでは良くないということで、今の経営陣はグプタ氏主導で、台数よりも1台あたりの利益を増やそうとしていました。

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栫井:販売台数はゴーン以後で明らかに減っていますが、売上も利益も去年まではきちんと出せていて、車の値段を上げるということはできてはいました。ところがブランド価値の低下に歯止めがきかなくなっているのが足元の状況かと思います。

元村:ブランド力が落ちた根本的な要因は何なのでしょうか?

栫井:1つは値下げすることによって買う側に“日産車は大したことない”という印象を与えてしまったことです。それと、台数を稼ぐためにレンタカーやタクシー(キャブ)にたくさん流したことによって、それが中古車市場に流れてしまい、割と新しい日産の中古車であふれ、新車が売れなくなってしまったのです。

元村:自分で自分の首を絞めた形になったんですね。もう一つ聞きたいのですが、日産といったらEV(電気自動車)の駆け出しという印象を持っていたのですが、結局世界的には販売台数が減ってきているという話ですよね。日産はどっちつかずになっているような感じがします。

栫井:まさにどっちつかずですよね。日産に限った話ではないですが、振り切れなかったところがあります。日産の中でもEVは20%くらいで、結局ガソリン車の方が大部分を占めていて、それを捨ててEVだけに特化するということはなかなかできることではありません。もし世の中の流れが完全にEVの方に行くとすると、最初から専業だったテスラやBYDが強いですよね。

元村:日産が今さら海外のEVに追いつくのは難しいんですか?

栫井:結局遅れてしまいましたね。EVを作ること自体はそれほど難しくないのですが、航続距離を伸ばそうとすると電池が鍵を握ることになります。BYDは電池を作っている会社なので当然強いですし、テスラはパナソニックに電池を作らせています。

元村:日産は自社でバッテリーのサプライチェーンを構築する部分ではかなり後れを取っている印象はありますね。

栫井:やってできないことはなかったんでしょうけど、そこまでおしりに火が付かなかったんでしょうね。

 

佐々木:そう考えると、日産の、車の販売における強みって何なのでしょうか。ガソリン車のイメージはあまりないですし、EVが強いというわけでもないとなると、強みが見えないところが難しい問題なのかなと思います。

栫井:そうですね。車が好きな人であれば、日産車のデザインが好き(古くはGTーRなど)ということもあります。アメリカでは、燃費が良くて丈夫で値段もそこそこというポジショニングではあったのですが、それに追加するものがなかったのかなと思います。マツダやスバルはSUVなどで車好きに向けたもので尖れたんですよね。それに対して日産は尖れていないところがあります。実はホンダも似たような状況で、自動車部門で見るとそれほど利益率は高くないです。

Next: 経営統合のメリットは?日産株の保有者はどうするべきか

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