10月16日に上場を果たしたテクセンドフォトマスク<429A>は、半導体市場のど真ん中に位置する企業として、数千億円という非常に大きな規模で注目を集めています。結論として、この会社は可能性のある面白い会社であると評価できます。この会社への投資を検討されている方は、ぜひ今回の内容を投資判断の材料として活用いただくことをお勧めします。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
企業の起源とフォトマスクの核心的な役割
テクセンドフォトマスクという社名を初めて聞く方も多いかもしれませんが、それもそのはず、同社は元々、広く知られる凸版印刷(TOPPANホールディングス)の子会社である「トッパンフォトマスク」でした。印刷会社である凸版印刷がなぜ半導体関連の会社を保有しているのかというと、その製造する製品に理由があります。
テクセンドフォトマスクが製造するのは、社名の通りフォトマスクという製品です。これは半導体を製造する上での非常に重要な、特に初期の工程で必要とされます。半導体は、キラキラとしたウェハと呼ばれる基板の上に、様々な電子回路を描くことによって作られます。現代の回路は非常に微細であるため、手作業で同線をつなぐような昔ながらの方法は通用しません。
ここで登場するのがフォトマスクです。フォトマスクは、光を透過させる部分と透過させない部分を利用し、ウェハに対して回路の「絵」を描くための原版となります。光を当てて回路を描き込むこの工程は露光(ろこう)と呼ばれ、これによりウェハ上に微細な回路を形成することが可能になります。
凸版印刷は、版画のような精密な絵を描く技術、すなわち板に対して細かく精密なものを描く技術に長けており、フォトマスクの製造は、まさにこの印刷技術の延長線上に位置していました。凸版印刷はこの技術を用いて、60年も前から半導体の世界に参入しています。

テクセンドフォトマスク<429A> 5分足(SBI証券提供)
アウトソース市場における寡占的地位
一般的に、フォトマスクの製造は、Intel、Samsung、TSMCといった大手半導体製造メーカーが自社で行う内製が主流であり、市場全体の約6割から7割がこの内製によって占められています。テクセンドは、TOPPANがそのフォトマスク製造部門を外出しし、専業で製造を行っている会社という位置づけになります。
内製を除くアウトソース市場(外販)において、主要なプレイヤーはテクセンド(旧 TOPPANホールディングス)、アメリカのフォトロニクス、そして日本の大日本印刷(DNP)38.9%のシェアを持ち、統計の取り方によって1位か2位となるものの、トップクラスの地位を占めています。
専業メーカーへの外注需要は複数存在します。一つは、TSMCのようなファウンドリ(受託製造)が量産化されていない段階での製造を請け負わないため、NVIDIAなどのファブレス企業(設計専門)が、最終製品化の前に試作外注することがあります。
地理的なリスク分散の観点でも、テクセンドは優位性を持っています。フォトロニクスがアメリカやアジア(中国)に、DNPが日本国内に強いとされる中で、テクセンドは世界中に顧客が分散しており、地政学リスクの分散ができている会社と言えます。
