「代替品への切り替え」は可能なのか
「中東がダメなら他国からナフサを調達すればいいではないか」と考える方もいるかもしれませんが、半導体の世界はそれほど甘いものではありません。
半導体材料は高機能であればあるほど、原料の産地や純度がわずかに変わるだけで、製品のパフォーマンスに影響を及ぼします。
例えば、ナフサ由来の物質から作られるフォトレジストや封止材などの高機能材料において、成分がわずかに変動すれば、半導体メーカー側による厳しい「品質の再認定」作業が必要になります。
この手続きには、早くても半年、通常であれば1年以上という膨大な時間がかかってしまいます。
特に足元のハイスペックなスマートフォンやAIサーバー向けのチップといった先端品になればなるほど、この代替品採用のハードルは極限まで高まります。
つまり、一度供給が寸断されれば、たとえ他から原料を調達できたとしても、工場が再び以前のように再稼働できるまでには非常に長いブランクが生じてしまうという、深刻なネガティブリスクが存在しているのです。
特に影響を受ける企業は?
ホルムズ海峡の封鎖が長期化することで、私たちが投資先としてよく目にする多くの日本企業も、その影響を避けることはできません。
まず真っ先に打撃を受けるのは、ヘリウムそのものを扱う産業ガス大手の日本酸素ホールディングスや、競合のエア・ウォーターです。
彼らは売るための商品そのものが入ってこなくなるため、商売が物理的に制約されてしまう可能性が高いのです。
次に、ナフサの供給滞りによって、フォトレジストを製造している東京応化工業、信越化学工業、住友化学、富士フイルムホールディングス、そしてJSRといった企業にも大きな影響が及びます。
これらの企業が作るフォトレジストは回路形成に不可欠ですが、原料が変わることによる「再認定」の壁が、彼らの事業の継続性に大きな圧力をかけます。
さらに、これら5社にフォトレジストの材料となる原液を供給している、さらに上流側のメーカーも同様の運命を辿ることになるでしょう。
洗浄液の原料を扱うメーカーも例外ではありません。
ウエハの洗浄に必要となる強力な酸は、石油を精製する際の副産物から作られるため、供給が止まれば洗浄液の生産も困難になります。
また、関東電化工業などの特殊ガスを手がける企業も、原油や天然ガスを由来とする原料に依存しているため、広範な影響が予想されます。
後工程の材料を幅広く手がけるレゾナックや、基盤材料を製造するイビデン、新興電気工業といった企業も、樹脂原料がなければ生産不能に陥ります。
特にイビデンなどは、基盤の燃焼を防ぐために必要な「臭素」などの材料をイスラエルなどから輸入していると推察されるため、紛争の拡大が直接的な打撃となるリスクも抱えています。
さらに、直接的な供給不足に陥らなくても、製造コストの上昇という形で影響を受けるパターンもあります。
ウエハを製造する信越化学工業やSUMCOは、製造過程で莫大な電気を使用しますが、中東からのエネルギー供給が滞り、電気代が爆上がりすれば、それはそのまま収益を圧迫する要因となります。
アルミや硫酸、ニッケル精錬の危機
今回の危機の余波は有機材料だけに留まりません。
洗浄用の硫酸やリン酸といった無機材料、さらには非鉄金属の分野にも波及する可能性があります。
例えば、電池や配線に用いられるニッケルの精錬時には硫酸が必要になりますが、この硫酸供給に影響が出れば、金属精錬そのものが滞ってしまいます。
また、半導体製造装置の部品に使われるアルミなどの素材についても、精錬プロセスに支障が出れば影響は免れません。
高機能な材料になればなるほど原料の切り替えが難しく、供給が寸断された際のダメージは甚大です。
日本の誇る半導体関連企業は、実は非常に細い「首の皮一枚」で繋がっているような危うい状況にあることを理解しておくべきです。