現在、ホルムズ海峡の封鎖が長引くことによって、私たちの生活に欠かせないスマートフォンや、今まさに世界を席巻しているAI技術を支える半導体材料への影響が深刻化しています。この海峡の封鎖は、単なるエネルギー供給の問題に留まらず、半導体材料や部品を生成するために必要不可欠な原料の供給を根底から滞らせてしまうという、極めて重いネガティブリスクを顕在化させつつあります。(※編注:原稿執筆時点2026年4月6日。現在は米・イラン間で停戦合意がなされたと報道されていますが、ホルムズ海峡については通行料を課される・国ごとに対応が異なるなど依然として混乱が続いている状況です)。
足元では中東情勢の変化に連動するように、半導体材料メーカーの株価も激しく乱高下を繰り返している状況にあります。こうした事態を受けて、株価が暴落したタイミングを狙って「押し目買い」を仕掛けようと考えている株式投資家の方も多いことでしょう。確かにそれは絶好のチャンスとなる可能性を秘めていますが、その期待の裏側に潜んでいる「致命的なリスク」について、私たちは正しく認識しておく必要があります。今回は、半導体業界のサプライチェーンが抱える脆弱性と、現在進行形で起きている危機の全貌を詳しく解説していきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』元村浩之)
プロフィール:元村 浩之(もとむら ひろゆき)
つばめ投資顧問アナリスト。1982年、長崎県生まれ。県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。2022年につばめ投資顧問に入社。長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。
なぜホルムズ海峡が「半導体」の命運を握るのか
みなさんが疑問に思うのは、なぜ中東の海域であるホルムズ海峡の封鎖が、最先端技術の結晶である半導体材料に関係してくるのかという点でしょう。
その根本的な理由は、半導体製造に欠かせない材料の多くが、原油や天然ガスを精製する際に出る「副産物」から作られているという事実にあります。
その代表例が「ナフサ」です。
ナフサは原油から生成される透明な液体であり、これを分解することでエチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンといった物質が生まれます。
これらがあらゆる化学品の原料となり、その中には半導体材料も多分に含まれているのです。いわばナフサは、日本の半導体材料メーカーにとっての「命」そのものであると言えます。
しかし、日本のナフサ供給の実態は驚くほど脆弱です。
2024年のデータに基づけば、日本はナフサの約6割を輸入に頼っており、国内で生産される約4割についても、その原料となる原油の9割を中東に依存しています。
さらに、直接輸入されるナフサについても、アラブ首長国連邦、クウェート、カタール、サウジアラビアといった国々が占める割合は7割を超えています。
つまり、ホルムズ海峡を通る船が止まってしまうということは、日本の化学工場に届く原料のほぼ全てが供給ストップに追い込まれることを意味しているのです。
供給停止が招く最悪のシナリオ
ナフサ以上に深刻な影を落としているのが「ヘリウム」の存在です。
ヘリウムは半導体の微細加工や冷却において絶対に欠かすことのできないガスですが、日本はその輸入相手国の37%をカタールに依存しています。
そして、カタール産ヘリウムが世界へ運ばれる唯一の輸出ルートが、まさにホルムズ海峡なのです。
ホルムズ海峡の封鎖が1ヶ月近くに及ぼうとする中、この事態が長期化することは半導体業界にとって致命傷になりかねません。
ヘリウムという物質は保管が極めて難しく、通常の工場の在庫は1週間から10日分程度しかありません。
備蓄やガス供給会社のストック分をかき集めたとしても、工場をこれまで通り通常稼働させ続けられるのは、数ヶ月が限界であると試算されています。
もし封鎖が半年も続くようなことになれば、在庫が尽きた瞬間に最先端の露光装置が駆動しなくなり、生産ラインそのものが止まってしまうという甚大なリスクがあるのです。
これは特定の企業だけの問題ではなく、半導体産業全体の沈黙を招く可能性を孕んでいます。
さらに、カタールの代表的なヘリウム生産拠点である「ラスラファン工場」が、イスラエルやアメリカによる軍事攻撃への報復として、イランによる攻撃を受けたと報じられています。
施設が損傷し、現在は創業を停止している状況であり、生産再開の目処すら立っていないというニュースは、材料供給の将来にさらなる暗雲を漂わせています。
