■ヤマノホールディングス<7571>の中長期の成長戦略
3. 2026年3月期の進捗状況
2026年3月期は中期経営計画の2年目として、収益構造の改善が着実に進展した。全社EBITDAマージンは前期の2.6%から補正後ベースで3.3%へ上昇し、ニューバリューセグメントの売上構成比も12.6%から15.2%へ拡大した。セグメント別に見ると、ニューバリューセグメントは先行投資やPMI費用を含みつつも6%超のEBITDAマージンを維持し、コアバリューセグメントもEBITDAマージンが1.6%から一過性要因を除いた補正後ベースで2.3%へ改善した。これらは、同社が進める「コアバリューセグメントで収益基盤を支え、ニューバリューセグメントで成長を取り込む」という事業ポートフォリオ戦略が一定の成果を上げ始めていることを示している。
M&Aについても進捗が見られた。同社は事業承継型M&Aを成長戦略の中核に据えており、案件発掘からPMI、収益化までを一連のプロセスとして管理している。年間300件超の新規案件情報の中から、カジュアル面談に進む案件は約8%、トップ面談は約4%、基本合意・デューデリジェンスに至る案件は1~2%程度に限られており、案件数そのものではなく、選定精度とPMIの質を重視している点に特徴がある。収益性、キャッシュ創出力、承継可能性に加え、PMIの難易度を確認しながら、再現性ある成長モデルの構築を進めている。
2026年3月期には、薬師スタジオ、ニューヨークジョーエクスチェンジ、アークネットが新たにグループ入りした。フォト、リユース、教育というニューバリューセグメントでのM&Aにより、成長事業の基盤が拡充された。特に教育事業については、首都圏で効率的な教室運営を行うアークネットの参画により、既存教室への運営ノウハウの展開も期待される。取材においても、経営陣は補正後EBITDAの伸長とセグメント構成比を重要な評価軸として強調しており、M&A関連費用や一過性要因を除いた実力値で収益力を評価する姿勢を示している。以上を踏まえると、2026年3月期時点では、ニューバリューセグメントの売上構成比の上昇、補正後EBITDAマージンの改善、M&Aによる成長領域の拡充が確認されており、中期経営計画の方向性に沿った進捗が見られる。
4. M&A戦略強化に向けた暗号資産活用
同社は、M&A戦略の実行力を高めるための新たな選択肢として、暗号資産を活用した対価・条件設計の検討を進めている。これは暗号資産を単純な投資対象や財務テクノロジー目的で保有するものではなく、事業承継型M&Aにおける対価設計の柔軟性を高めるための戦略的な手段と位置付けられる。対象通貨はBTCを想定し、2026年6月から2027年5月までの期間に、年間購入上限10億円の範囲で段階的に取得する方針である。
具体的には、M&Aにおける現金対価を基本としつつ、一部については暗号資産に連動するプットオプションを売主に付与する仕組みを検討している。取材によれば、同社が想定しているのは、暗号資産そのものを売主に直接譲渡する形ではなく、売主が将来一定条件で同社に売却できる権利を付与するスキームである。売主にとっては、売却対価の受け取り方法が多様化するだけでなく、下落時には一定の下限が確保され、価格上昇時にはその上昇メリットを享受できる可能性がある。すなわち、下落リスクを限定しながら相場上昇の期待を持てる構造である。
また、同社にとっては、M&A実行時の初期キャッシュ・アウトを抑制できる点が大きい。従来は買収対価の多くを現金で支払う必要があったが、オプションを組み合わせることで、現金支払いを一部抑えつつ売主にとっても受け入れやすい条件設計が可能となる。取材では、対象会社からの対価と組み合わせることで、実質的に同社のキャッシュ持ち出しを大きく抑えたM&Aが成立する可能性にも言及されていた。これは、同社が継続的に事業承継型M&Aを実行していくうえで、資金効率を高める手段となり得る。
もっとも、暗号資産は価格変動が大きく、価格下落時には同社側がリスクを負う可能性がある。そのため同社は、取得・保有に関する実務論点、会計処理、税務、法務、モニタリング体制などを慎重に検討している。外部アドバイザーを招聘し、M&A対価としての活用可能性、条件設計上の論点、保有資産の運用効率向上とリスク管理について助言を受けながら制度設計を進めている。暗号資産活用は、現時点では検討段階であるものの、同社のM&A戦略における重要な補完手段となる可能性がある。特に、売主側には対価受領の多様化と価格上昇メリットを提供し、同社側には初期資金負担の抑制と案件獲得力の向上をもたらす点で、双方にメリットを持つ設計である。事業承継型M&Aにおいて、売主の意向や資金ニーズに応じた柔軟な提案力を持つことは案件獲得競争上の差別化要因となる。同社が暗号資産をM&A対価の一部として活用する仕組みを実務化できれば、資金制約を抑えながら成長投資を継続する新たなM&Aモデルとして注目される可能性がある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 中西 哲)
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