「このままいくと、子どもに『父ちゃん、食い逃げした』と言われると思っているんです」そう話すのは、株式会社雨風太陽<5616>の高橋博之社長です。日本の豊かな食を支えてきた農家や漁師、地域の暮らしを次世代には残せないかもしれない。そんな危機感から、雨風太陽社は「都市と地方をかきまぜる」というミッションを掲げ、事業を行ってきました。2023年12月には、日本初のインパクトIPOとして東証グロース市場に上場。産直アプリ「ポケットマルシェ」や「ポケマルおやこ地方留学」などのサービスを通じて、都市と地方、生産者と消費者をつなげています。
さらに、2025年6月13日には、同社が長年提唱してきた「関係人口」を可視化する「ふるさと住民登録制度」の創設が閣議決定されました。2026年度中の本格運用に向けて、いよいよ動き出し、同社の事業にとっても追い風となりそうです。そこで今回は、雨風太陽社の高橋博之代表取締役社長、権藤裕樹代表取締役副社長に、投資インフルエンサーのきこさんが取材を行いました。三者の対話をもとに、同社の現在地と、その先に見ている世界を紐解いていきます。
プロフィール:きこ
野村證券株式会社2017年入社。法人営業を経験し、CEO賞を受賞。現在はJUNGLE TOKYO GINZAに在籍をしながら、投資インフルエンサーとして活動。各種メディアにも出演。
雨風太陽社の「都市と地方をかきまぜる」原点
雨風太陽社の原点は、東日本大震災にあります。
岩手県花巻市生まれの高橋社長は、2006年に岩手県議会議員に当時最年少で当選。
農家の所得や人口減少といった課題に向き合ってきましたが、当初は「岩手にあるリソースだけで何とかしようとしていた」と振り返ります。
そうしたなか、2011年3月11日に東日本大震災が発生します。
<生産者のプロセスを知ると、食の価値は変わる>

きこ「東日本大震災でのご経験が、今の事業にまでつながっているんですよね」
高橋氏「はい。震災があって、都会の人が一気に流れ込んできて、その時に視界が広がったんですよ。
ボランティアで来てくれた人やビジネスパーソンなど、生まれて初めて漁師に会ったみたいな人が多かったです」
都会の寿司屋や居酒屋で魚を食べていた人が、漁師と出会い、話を聞き、一緒に汗を流す。
すると、価値の見え方が変わっていったそうです。
高橋氏「今の消費社会は、スーパーに並んでいる最後の商品だけで価値が判断されているわけですが、漁業のプロセスを見た消費者のなかでは、最終プロダクトである魚介類の価値が上がっていきました。
食べ物の裏側の生産者を見えるようにして、双方向でつながれたら、付加価値になるんだなと知ったんです」
この気づきが、全国の農家・漁師と直接やり取りしながら旬の食材を購入できる産直アプリ「ポケットマルシェ」の原点となりました。
<都市と地方、両方の強みで両方の弱みを解決>
さらに高橋社長にとって印象深かったのが、都会から被災地に来て、元気を取り戻して帰っていく姿でした。
高橋氏「東京では、自分らしく生きられないなと感じている人もいて、そうした人たちが求めているものが、まさにここ(東北)にはあった。
だから、元気になって帰っていったんです。
それを見て、そうか都市と地方ってコインの表裏だから、両方の強みで両方の弱みを解決できるんだと思ったんですよ。
当初は、『どっちの課題を解決したいんだ、欲張りだ』とも言われたのですが、欲張りではなくて、論理的帰結なんです。
都市と地方ってもともと一緒だったものが分かれたものなので、合わせたらそれぞれの問題を解決できると思い至ったわけです」
<都市生まれの人にも「帰るふるさと」をつくる>
そのうえで現状について、人口が都市に偏り続けた結果、「帰るふるさとがない人が非常に増えている」と、高橋社長は話します。
地方に住んだ経験も、親族や友人が住んでいるわけでもなければ、「地方に税金を使い続けても無駄ではないか」と考えかねません。
都市生まれの人にも、ふるさとを持ってもらう。
そのために雨風太陽社は、親子で1週間といったまとまった期間を、地方で自然や生産現場について学びながら過ごす「ポケマルおやこ地方留学」などの事業も展開しています。
「ポケットマルシェ」「ポケマルおやこ地方留学」などのサービスを通じて、都市と地方をかきまぜて、両方の課題を解決していく。
これが、同社の事業を貫く軸となっています。
提唱者の高橋社長が語る「関係人口」とは?
「都市と地方をかきまぜる」というミッションと並んで、雨風太陽社の挑戦を象徴するのが「関係人口」です。
関係人口とは、地域や、その地域の人々とさまざまな形で継続的に関わる地域外の人々を指します。
<関係人口は地方の友達、都市住民にもメリットがある>

高橋社長は、関係人口についてわかりやすく説明してくれました。
高橋氏「できる社長って、友達が多いじゃないですか。
それって結局、資産が多いんですよ。
課題にぶつかったときに『こういうやり方があるよ』と教えてくれる人がいたり、お金を出してくれる人がいたり、それができる人を紹介してくれる人がいたり。
地域も一緒で、一切外と関わらないと、引きこもりの状態じゃないですか。
限られた資源や人だけでは解決できないから、地域課題が残ってしまう。
なので、色々な人と関わって、課題を解決できる知恵を持っている外の人と組んだ方が良いと思っています」
きこ「都市住民にとっての、関係人口になるメリットについてはどう考えられていますか?」
高橋氏「関係人口は都市住民にとっても非常に良いです。
巨大地震が発生した場合に、1か所しか拠点がないとたちまち被災者になってしまいます。
もう1つ拠点があったら、そっちにパソコンを1台持っていけば、日常生活や仕事ができます」
加えて高橋社長が強調したのは、「生きるリアリティ」の回復でした。
合理性を追求し続けた結果、基本的に飢えることはなく、多くの人が天寿を全うできるようになった現代社会。
便利な一方で、予定調和的で、生きる手応えや感動がないと指摘します。
その点、田舎には、人間が生きていくために必要な食べ物を、体を動かして、自然に働きかけて生産している古来から変わらない営みがあります。
そうした営みに触れて、汗をかいて、美味しいものを食べた時に、生きる手応えが回復していくといいます。
<交流人口(旅行・ビジネスで訪問する人)との違い「関係人口は生活」>

きこ「旅行でもリフレッシュできるとは思うのですが、それとは違いますか?」
高橋氏「旅行も良いですよ。
ただね、関係人口は生活なんですよ。生活の一部が都市からはみ出ていく感じです。
いつ、誰と、どこでご飯を食べるんだっけ、子供を育てるんだっけ、余暇の時間を過ごすんだっけ。
そういう自分の生活を、一人一人がオーダーメイドでデザインできる時代になっていくと思います。
その時に、都市にしか拠点がないと人は縛られてしまいます。
拠点が2つあれば、ライフステージや季節、あるいは子供の年齢に応じて、行ったり来たりできる。
その方がみんな豊かに生きられるんじゃないかなと思っています」
きこ「私の周りでも、結婚された方が、奥さんは地方の実家で子育てをしていて、週末に夫が通うようなスタイルを取り始めています。
自分も子供が生まれたら、地方と都市で生活したいなと思っています」
高橋氏「やっぱり東京で子育ては大変です。
電車で子供が騒いだら『静かにしなさい』ってなるじゃないですか。
それは人が多いから仕方ない。
でも、地方なら全然それをとがめない。子供らしくいられますよね」
高橋社長は、「地方の過疎の解消が、一番やりたいことなのですが、東京一極集中の流れはなかなか変えられない」とも話しました。
「コロナ後も都市への人口流入は再加速しているし、砂漠に砂をまくような感覚」としつつも、今できる関係人口を増やす取り組みを着実に進めています。

