二人代表制と社会的財務諸表|インパクトIPOとしての評価模索
経済性と社会性の二兎を追って、日本初のインパクトIPOとして上場した雨風太陽社。
IPOによって、影響力・信頼性が高まったほか、経済性と社会性の両立を追う若い起業家への道しるべも示せたと高橋社長は話します。
一方で、現実は厳しいとも認めています。
高橋氏「良いことをやっていると公表したところで、別に株価は上がらない。
経済性と社会性の両立の難しさを、日々、株価という形で突きつけられながらやっています」
日本には前例のないインパクトIPO企業として、どう投資家や株式市場に向き合っているのか、現状の取り組みについてうかがいました。
<社会性と経済性をそれぞれが担う体制へ>

雨風太陽社は、2025年1月から、社会性を担う高橋社長と、経済性を担う権藤副社長が、それぞれの責任を持ち寄りながら経営にあたる二人代表制を打ち出しました。
権藤副社長は、東京大学法学部を卒業して総務省に入省し、鳥取県への出向時に「鳥取食べる通信」の創刊に関わった経歴を持ちます。
権藤副社長が高橋社長と初めて出会ったのは、東京大学2年生のとき。
高橋社長の講演をたまたま聞いたのが、関心を持つきっかけとなりました。
きこ「権藤副社長は、高橋社長の講演のどこに魅力を感じたのでしょうか」
権藤氏「世の中を変える人って、何かを発明するか、それをビジネスとして広げていくパターンが多いかと思います。
高橋は、そのどちらでもなく、生き様で思いを伝えていくタイプの人間だなって思っています。
たとえば、県知事選に出たときに、震災後の被災地の沿岸を300キロ歩く選挙戦をやっていました。
非効率で、選挙戦としてはおかしいです。
でも、メッセージ性が強く、生き様として伝わると思ったんです。
そうしたことをずっとやってきていて、講演でもビジョンにかける思いの強さをひしひしと感じました」
きこ「それで雨風太陽社に入られて、二人代表制にまで至っているわけですね」
権藤氏「僕はビジネスとしてちゃんと広げていくのが得意なタイプです。
高橋にはこのまま生き様で体現してもらって、僕はそれを形にして、世の中にサービスとして伝えていきます。
明確に役割を分けることで、対外的にも、社会的なインパクトと経済的な事業活動の両方を、責任を持ってやるというメッセージになっています」
高橋氏「会社として社会性と経済性は、一見相反するように見えるんですけれど、そこをどう統合していくのかは挑戦なんですよね。まだ道半ばですけれども」

出典:2025年12月期通期 決算説明資料(2026.2.13) P35 – 株式会社雨風太陽
<社会的財務諸表という新しい挑戦>
二人代表制と並んで、雨風太陽社が新たに開発したのが「社会的財務諸表」です。
通常の貸借対照表・損益計算書の上に、ソーシャルインパクトの蓄積と創出を可視化するレイヤーを乗せる独自フレームワーク。
中核となるのが「ソーシャルキャピタル」と「ソーシャルアセット」の2つの指標です。

出典:2025年12月期通期 決算説明資料(2026.2.13) P36 – 株式会社雨風太陽
ソーシャルキャピタルは、高橋社長がビジョンを伝えてきた量そのものを指し、1人に対して1時間ビジョンを伝えることを1単位とする「時間人」で計測されます。
ソーシャルアセットは、共感して実際に行動した「共感者」の数です。
ただし、この新しい枠組みは、まだ十分理解されているとは言えません。
高橋氏「出したばかりなので、まずは可視化なんですよね。
社会的に良いことをやっていますよと言ったって、具体的にどういうインパクトを生み出しているのか、見えるようにしなきゃいけない。
なおかつ、事業の活動にもプラスになっているという関係性も示さなきゃいけない。
社会性と経済性って両立しているんだな、良いことをやっているこの会社は、ちゃんと将来に利益を上げていくんだなということを株主に説明して、株を買ってもらう。
そこはまだうまくできていないので、もっとうまく説明できるだろうな、どうやってこの子を育てようかと考えながら、必死に育てている感じです」
足元の市場の評価|「台風銘柄」という揶揄の先で
雨風太陽社が挑戦を続ける一方で、足元の同社の株価は2024年以来の安値に沈んでいます。
現在、株式市場はまさにAIブームで、それ以外の価値を評価する方向には市場参加者の目が向かなくなってしまっている状況です。

【5616】雨風太陽 週足チャート 2023年12月18日~2026年6月12日
※TradingViewより引用
<台風6号接近で株価はストップ高に>
そうしたなか、台風6号の接近を受けて、雨風太陽社の株価がストップ高となる場面もありました。
急騰の背景には、台風で農作物に被害が出て野菜や果物などがスーパーで品薄になった場合や流通が乱れた場合に、産直アプリ「ポケットマルシェ」が代替調達経路として機能するという読みや、支援のための購入が増えるとの思惑があります。
実際、2024年のコメ不足局面では、ポケットマルシェの「お米」販売額が前年比5倍に拡大しました。
今回の急騰について、株式掲示板やSNSでは「台風が来ると上がる」「台風銘柄」と揶揄する声も見られました。
皮肉にも、こうして揶揄する投資家ほど、本当は生産者と消費者が直接つながる価値を理解しているのかもしれません。
台風接近のニュースに反応して買いを入れるのは、「平時のスーパーで成り立っている流通の脆さ」と「ポケットマルシェの代替価値」を認めているからにほかならないからです。
しかし、株価の動きは短期の値幅取りで完結しています。
台風の通過とともに株価は元に戻り、中長期で積み上げてきた社会的価値が反映されているとは言いがたい状況です。
有事の連想ではなく、日常の延長線上で同社の価値を意識する投資家が増えていくかが今後の課題です。
ふるさと住民登録制度本格開始後に、自治体事業の伸びが数字で見えるかも焦点となりそうです。
<社会的な価値が評価される世の中は必ず来る>
こうした市場の評価について、高橋社長にも意見をうかがいました。
高橋氏「企業活動の前提は、安定した社会と環境なんですよね。
ところが、短期的な利益を世界中の人が追い求めた結果、企業活動の前提である安定した社会と環境を壊してきました。
これは永続的じゃないよねと、ESGやSDGsなど経済的・社会的な価値も評価される世の中になり始めているけれど、日本はだいぶ周回遅れになっている」
それでも「諦めずに続けていったら、必ず追いついてくると思っている」と高橋社長。
そのうえで、こうも続けました。
高橋氏「とはいえ、それにあぐらをかいてはいけない。
社会的な活動が巡り巡って、皆さんの生活を変えるし、良くするし、多くの人が望んでいるんだったらマーケットにもなって儲かる、というのを投資家さんに理解してもらえるように説明する技量を、こちらも持たないといけません」
その「伝える技量」を磨くため、同社は手探りを続けています。
<しかし、残された時間は決して長くはない>

ただし、その手探りに、無限の時間が許されているわけではありません。
雨風太陽社が向き合っている社会課題は、市場が追いつくのを悠長に待っていられない速さで深刻化しています。
人口戦略会議の2024年レポートでは、消滅可能性自治体を「2020年から2050年までの30年間で若年女性人口が50%以上減少する自治体」と定義し、該当数を744自治体としました。
これは、全国1,729自治体の43%にあたります。
高橋氏「このままいくと、うちの子供が小学校6年生ですけど、『父ちゃん、食い逃げした』って言われると思っていて。
食べられない魚が増えているんですよ。
温暖化だけじゃなくて、取り過ぎの問題もあるし、農業も漁業もやる人が減っている」
このまま進めば、一次産業は他国に委ねることになる、と高橋社長は危機感をにじませました。
高橋氏「そういう未来を受け渡したくない。引き続き日本の食の豊かさを子供たちに味わわせたい。
日本の食の豊かさを引き続き享受して、孫に受け渡したいと思ってくださるのであれば、僕らの会社を応援してください」
この危機感に共感できる投資家にとって、雨風太陽社への投資は、単なる資産運用を超えた意味を持つはずです。
雨風太陽社は時代の半歩先を歩んでいる
取材を終えて、雨風太陽社は時代の半歩先を歩いている会社だと感じました。
震災後の光景から「関係人口」を着想し、信念を持って言い続けた末に、国の制度化にまでこぎつけた高橋社長。
先見性と実行力を、これほど高い次元で両立している経営者は、それほど多くないように思います。
問題は、世の中が同社に追いつくスピードです。
ふるさと住民登録制度の本格運用は、2026年度中に始まります。
AIの普及で「田舎にしかないもの」の価値が再評価され、食料安全保障の議論が深刻化していくなかで、雨風太陽社のミッションが社会の真ん中に置かれる日は、実は近いのかもしれません。
取材中、きこさんも「ダメ元で発信し続けるのが大事」という高橋社長の言葉に深く共感していました。
地道に発信を続けてきたからこそ、ふるさと住民登録制度の制度化までたどり着きました。
今後は、この制度の本格運用開始が同社の収益にどの程度寄与するか、そして高橋社長が生き様で伝え続け、人々の意識をどこまで変えられるかが焦点となりそうです。
本記事は日本投資機構が運営する金融メディア『INVEST LEADERS』からの提供記事です。
※タイトル・リード・見出しはMONEY VOICE編集部による
無料メルマガ好評配信中
勝ち株ガイド|INVESTLEADERS 公式メルマガ
[無料 ほぼ 平日刊]
【日本株市場の裏側をプロが速報解説】急騰注目株の上昇要因や大きく動いた人気株の見通しなど、投資家なら知っておきたいニュースを機関投資家目線で深掘りします。企業決算や株価チャートの本質もわかりやすくお届け。日本株の運用助言で利益を上げているアナリストを多数擁する日本投資機構株式会社(関東財務局長(金商)第2747号)発行。
