1つには、市場の期待が高くなりすぎていたことがあります。
株価は、現在の業績だけではなく、将来の業績予想を先回りして動きます。どれほど好決算であっても、市場がそれ以上の数字を期待していれば、決算発表後に株価が下がることがあります。
ただし、今回の半導体株の下落を、すべて「決算への失望」で説明するのは無理があると考えています。
決算の中身に明確な悪材料があったから売られたというよりも、これまで株価が大きく上昇してきたため、利益確定売りが出やすくなっていたのでしょう。
株価は一方向に上がり続けるものではありません。
高く上がった株ほど、どこかで大きく下がります。今回の下落は、現時点ではAIブームの終焉というより、上昇相場の中で起きる自然な調整と見るほうが妥当だと思います。
それでも市場が警戒する「シリコンサイクル」
もっとも、株価調整だから何も心配する必要がない、という話でもありません。
半導体業界には、需要の拡大と縮小を繰り返す「シリコンサイクル」があります。
需要が伸びて半導体価格が上昇すると、各社は生産設備を増強します。しかし、やがて製品が市場に行き渡り、供給が需要を上回るようになると価格が下落します。
パソコンやスマートフォン向け半導体では、こうした循環が何度も繰り返されてきました。
現在のAI・データセンター投資についても、
「いずれサーバーが行き渡るのではないか」
「半導体の供給能力が増えすぎるのではないか」
「今回も最後にはシリコンサイクルが訪れるのではないか」
という懸念があります。
一方で、今回はAIという大きな技術革新があるため、従来のサイクルを超えた「スーパーサイクル」になるという見方もあります。
このどちらが正しいのかが、今後の半導体株を考えるうえで重要な論点です。
AIブームは簡単には終わらない
私は、AI需要そのものは今後も続く可能性が高いと考えています。
理由は単純です。AIがすでに実際の仕事に使われ始めているからです。
プログラミング、文章作成、調査、資料作成、顧客対応など、さまざまな業務がAIによって効率化されています。
初期のインターネットやスマートフォンも、登場した直後は「本当に普及するのか」と疑われました。
しかし、一度その利便性を知ると、企業も個人も以前の状態には戻れなくなります。
AIも同じです。
少なくともビジネスの世界では、AIを使うことでコストを下げ、業務の質を高められる場面が増えています。企業への本格的な導入は、むしろこれからです。
そのため、今回の株価下落を「AIブームの終わりを先取りしたもの」とは見ていません。
本当に見るべき指標は「ROI」
ただし、AI需要が続くことと、現在の価格で半導体が買われ続けることは同じではありません。
これから最も重要になる言葉が、ROI(Return on Investment)です。
日本語では「投資収益率」と訳されます。簡単にいえば、投じたお金に対して、どれだけの利益を得られるかという考え方です。
AI投資の主役であるハイパースケーラーの立場になって考えてみましょう。
GoogleやMicrosoft、Amazonは、巨額の資金を使ってデータセンターを建設しています。
当然ながら、経営者は「とにかく高性能な設備を作ればよい」と考え続けるわけにはいきません。
投資した金額に対して、十分な収益が得られるかを考える必要があります。
ROIは、大きく二つに分けて考えられます。
1つは、AIによってどれだけ収益を増やせるかという分子の部分です。
もう1つは、AI設備を作り、運用するためにいくらかかるかという分母の部分です。
AI投資は「性能競争」から「採算競争」へ
これまでは、多少コストが高くても、高性能なAIを開発することが優先されてきました。
競合他社に遅れないためには、NVIDIAの高性能GPUや大量のメモリを購入し、できるだけ早くサーバーを構築する必要があったからです。
しかし、AIの性能が一定の水準に達し、収益化の方法が見え始めると、経営者の関心は変化します。
次に考えるのは、
同じサービスを、もっと少ない投資で提供できないか
ということです。
GoogleはGPUだけに依存せず、自社開発のTPUを利用しています。AIモデルの側でも、より少ない計算量で高い性能を出す技術が開発されています。
こうした動きは、すべてROIの分母、つまり投資コストを下げる取り組みです。
今後のAI投資は、単純な性能競争から、性能とコストのバランスを競う段階へ移っていく可能性があります。
高すぎる部品は代替される
この変化は、半導体企業にとって非常に重要です。
NVIDIAのGPUは非常に高価です。メモリ価格も大幅に上昇しています。
もちろん、必要であればハイパースケーラーは購入します。しかし、価格が上がりすぎれば、経営者は必ず別の方法を探します。
例えば、
- 自社開発チップへの切り替え
- より安い半導体の採用
- AIモデルの効率化
- 必要な計算量の削減
- サーバー構成の見直し
- 中国などの新規メーカーからの調達
といった選択肢です。
ここがキオクシアを見るうえでの重要なポイントです。
現在の高い利益率は、メモリ価格が急上昇しているからこそ実現しています。
しかし、価格が高くなりすぎれば、利用者側は安い製品を探します。新たなメーカーが供給を増やせば、需給も徐々に緩みます。
供給が増え、価格が下がれば、キオクシアの利益も現在の異常な水準から落ち着いていく可能性があります。
つまり、
AI需要が続くことと、キオクシアの現在の利益水準が続くことは別問題
なのです。