高圧送電網と5G通信基地網の広がり
この「西電東送」、西で作った電気を東へ送る政策を成り立たせるには、中国の広大な領土を横切る高圧送電網の建設が欠かせない。有名になったのは、チベット自治区から四川省、重慶市、湖北省までをつなぐ総延長1901kmの「800キロボルト超高圧直流送電プロジェクト」。海抜4800メートルの高地を通り、最大傾斜65度の尾根に113基の鉄塔を建てる四川省の最難関の工区を克服して、日本で言えば北海道の宗谷岬から鹿児島県大隅半島の先端までに匹敵する距離を超えて電気を運ぼうとする、その戦略的意思の堅固さにはたじろぐばかりである。
これと並行して、5Gの通信基地局の建設も急速に進められている。5G局は25年末で全国で約475万カ所に達した。(ここで富坂書とちょっと離れるが)日本は同年末で30万強で、中国の国土面積が日本の26倍であることを考えると、日本の方が進んでいるように見える。しかし中国の場合、人の住まない砂漠にくまなく電波を届かせる必要はないので、実際のところは人口カバー率を比べないと分からない。また5Gの中身も問題で、中国の大都市圏では5G-A、すなわち次世代の6Gに繋がる5.5Gの普及が進んでいるのに対し、日本は事実上4.5G(「なんちゃって5G」と揶揄される)、つまり4Gから5Gへの過渡段階にある。
いずれにせよ、中国は躍起になって電力と通信のインフラ整備を進めているのだが、それは何のためかと問えば、直ちに「ああ、それは完全自動運転のためですよ」という答えが返ってくる。
実際、中国では、EV(Electric Vehicle)はじめ新エネルギー車(NEV=New Energy Vehicle)の普及が急速に進んでいる。NEVの累計販売台数は25年に4000万台を突破し、これにより中国はNEVの生産と販売で10年連続、世界首位を維持したことになる。つまり、世界最大の自動車市場を抱える中国は、迷うことなく、「EV大国」への道を突き進んでいるのである。
工場もロボット化で無人に出来る
そのことは、北京はもちろん、西安や哈爾濱などでも、街中を車で移動すればたちまち実感することができる。何しろ後部からマフラーを突き出しているガソリン車は10台に1台も走っておらず、見つけるのが難しいほどである。
日本では逆に、トヨタもホンダもEVから撤退すると発表していて、それは(1) 充電ステーションが増えない、(2) バッテリーの容量を大きく出来ない、(3) 生産コストが高く消費者の手に届きやすい販売価格にならない、などの理由によるのだろう。
日本では充電所は2万6000カ所ほどだが、中国では現在は約2000万カ所あり、さらに25年10月の政府方針で「27年末までに2800万カ所」へと急増させる。EV化を進めたいのなら、政治がそのように決断しなければダメで、市場に任せておいたのでは進まないのは当たり前である。バッテリーの容量を大きくできず航続距離が伸びないというのは世界共通の悩みで、一時は中国でも、高速道路に太陽光パネルを敷き詰めて、走りながら充電できる技術を試したりしていた。しかし、それはすでに過去の話で、バッテリーの技術が急速に進歩して「充電時間5分で400km走行可能」とか「1回充電で1500km航続」とかを中国のトップ電池メーカーCATLが実現している。CATLはEV向けバッテリーで24年に韓国のLGを抜いて世界シェアでトップに立ち、香港株式市場に上場を果たした。
EVの生産コストが高いという問題も、解決できないわけではない。中国のEVメーカー「Zeekr(ジーカー)」の工場は、照明も暖房もない中、885台のロボットが24時間、働き続ける完全自動化の無人工場である。そのロボットを管理するのはやはり人間で、100人ほどの従業員がそれに当たる。同社はこのような工場を全国にすでに100カ所も展開している。
だから、要は、政府の戦略と経営者のやる気の問題なのである。こうして世界は、中国を先導役としEUが付いていくEV化陣営と、米国に日本が従うガソリン車陣営とに分かれていくのである。
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