誰もが「息ができない」
抗議運動の2つのスローガン、「黒人の命は大切だ(Black Lives Matter)」と「息ができない(I can’t breaze)」は、まさに政府のロックダウンによる経済苦で窒息しそうになっている人々の深い感情を表現している。
特に「息ができない(I can’t breaze)」は、マスクの強要で息ができない苦しさとも重なる。そして、「黒人の命は大切」は、自分たちの命も大切だという強い気持ちと重なっている。
このように、ジョージ・フロイド氏の死は世界的に共有されている苦難の象徴になった。いわばその死は、抑圧されているマグマが勢いよく噴出する噴火口のようなものになった。
ということでは、フロイド氏の死をきっかけに始まったこの運動は、彼の死という具体的な出来事を越え、経済的苦難が続く限り世界的に拡大してゆくはずだ。
暴動を煽るトランプのツイート
一方、世界的に拡大し、米国内では手がつけられないほど拡大している激しい抗議デモだが、むしろ火に油を注いで煽っているのが、トランプ大統領である。
普通、このように国内は混乱したとき大統領は広く国民の連帯を訴えるために、デモのきっかけとなったフロイド氏の死を痛むと同時に、警察官の黒人差別の解消策を打ち出すのだが、トランプのツイートはこうしたものとは正反対だった。
次のようなものが、トランプのツイートの例だ。
「上院議員のトム・コットンは『暴動を警察が抑えられないなら軍を投入せよ、アンティファと陸軍第101空挺師団とどっちが強いか勝負だ』と語る。第101空挺師団はノルマンディー上陸作戦やイラク戦争で投入。彼は元第101空挺師団でイラク戦争で戦った」。
「寝ぼけたジョー・バイデンの連中は実に極左で無政府主義者(暴動者)を刑務所から釈放しようとする。ジョーはそれについてまったく分かっておらず、無知だ。しかし連中は大きな力を持つだろう。彼らは税金を高くし、もっと色々なことをするのだ」。
「『マスゴミ』は出来る限りを尽くして憎悪と無政府状態を駆り立てる。国民が、彼らが何をしようとし、彼らがフェイクニュースであり、悪意を持った悪党だと分かっている限り『偉大さ』でこれを簡単に乗り越えることができるのだ」。
トランプのツイートはフロイド氏の死を痛み、問題の解消を約束するものではなく、むしろ暴徒化した抗議デモを非難し、軍の投入を強く推奨するものがほとんどだ。
これはむしろ抗議している国民の反感を買い、運動の過激化を煽る結果になっている。