プレシジョン・システム・サイエンス<7707>は、千葉県松戸市に本社を置く、遺伝子検査分野の検査・診断用製品の開発・製造・販売を手掛けるメーカーである。同社の主力は、PCR等の遺伝子検査の前処理工程である核酸抽出を自動化する装置と、それに使用する独自の抽出試薬・専用プラスチック消耗品であり、装置を世界各地の医療機関・検査機関・診断薬メーカーに設置し、その稼働に伴って試薬・消耗品が継続的に消費される「PSSプラットフォーム」のリカーリングモデルを事業の中核に据えている。1995年に磁性粒子を利用した化学発光免疫測定装置を製品化し、PSSプラットフォーム磁性粒子を用いた技術「マグトレーション」を利用した核酸自動抽出装置を製品化した。装置の累計設置台数は3,300台を超え、販売はグローバル大手向けのODM供給が主体であり、2025年6月期の売上依存度は伊ELITechGroup向けが55.0%、PHCホールディングス<6523>向けが11%を占めるほか、ODM顧客にはThermo Fisher傘下のLife TechnologiesやQIAGENといった大手も名を連ねる。
同社はODM供給のほか、自社ブランド製品を日本国内及び、提携する現地の代理店を通じてEMEA、APACを中心に販売している。2025年9月にはSysmex Europe SE社が同社ブランドの全自動遺伝子検査システム「geneLEAD 8」を欧州で販売開始した。自社ブランド製品が装置に占める割合は約20%だという。このほか、中国のパートナーQuaero社が51%を出資する合弁会社(エヌピーエス社)が、秋田県大館市で同社向けおよびQuaero社向けの装置製造事業を展開している。2026年6月期時点の売上高構成は、装置42.8%、試薬・消耗品39.1%、サービス・その他18.2%となっている。
同社の強みは、第一に、オープンプラットフォーム戦略にある。競合他社の多くは自社装置に自社指定試薬を組み合わせるクローズドな専用システムであるのに対し、同社は自動
化装置メーカーとしての強みと独自の核酸抽出試薬を武器に、多様な診断薬メーカーの試薬とマッチングできる汎用性を確保している。同社装置のユーザーは1種類の抽出試薬で13種類の試料を検査でき、最大顧客ELITechのパートナー試薬は約60種類に及ぶなど、プラットフォームとしての拡張性が高い。第二に、試薬を個包装カセットに充填して抽出を行う独自方式である。抽出性能の高さと試薬とのマッチングの良さを支えるこのアイデアは他社が模倣困難であり、参入障壁を形成している。第三に、核酸抽出市場で競合するQIAGENやThermo Fisherといった欧米大手ですら、自社開発ではなく同社へのODM委託を選び続けている開発・製造力である。磁性粒子核酸抽出市場は欧米大手5社が73.5%を占め同社シェアは5.8%にとどまるが、裏を返せばシェア拡大余地は大きい。なお、装置・試薬のリカーリングモデルという点では国内上場企業ではミズホメディー<4595>が近い事業モデルといえる。
直近の業績である2026年6月期通期決算は、売上高5,216百万円(前期比11.2%増)、営業損益は201百万円の黒字に転換、いずれも会社予想を上回って着地した。収益改善の要因は、米国子会社の清算を含む事業再編とコスト効率化による販管費の削減、PSSプラットフォームビジネスへの注力によるリカーリング収益の拡大であり、抽出試薬を生産する秋田・大館工場の稼働率上昇も採算改善に寄与した。第3四半期決算短信では継続企業の前提に関する重要事象等の「解消」が明記されており、財務面の懸念は後退している。株主還元では、5期ぶりに2円で復配となった。2027年6月期は、売上高5,650百万円(前期比8.3%増)、営業利益350百万円(同73.9%増)と大幅増益を見込んでいる。今期の年間配当予想は3円を想定し、1円増配を予定。
中期経営計画では今期最終年度となる。成長ドライバーは複数存在しており、まずは2024年7月からELITechと締結した5年・総額70億円以上の長期供給契約であり、Bruker社のLiquid Array技術搭載機の開発も進行している。また、自社ブランド装置「geneLEAD 8」の欧州展開も始まっており、ELITechチャネルと並ぶ最重要ポイントと位置づけ、自社プラットフォームの成長エンジンに育成する方針である。加えて、新規ODM製品受託開発の推進も行っており、2026年6月期の第3四半期に2機種を上市すると計画していたが、顧客の判断により1機種の上市が2027年6月期に延期された。2027年6月期に別の1機種を上市すると計画している。さらに、新規事業である糖鎖解析システムにも期待が集まる。研究用の糖鎖自動分析装置「LuBEA-8」を2025年7月に販売開始したほか、これをプラットフォームとしたIgA腎症検査キットの開発に関する岡山大学との共同研究を進め、2027年度の市場評価・薬事申請に向けたマイルストーンを設定している。細胞治療・免疫関連など遺伝子が活用される先端領域への展開余地もあり、開発の進捗を丁寧に開示していく意向である。
株主還元は、今回の復配を起点に、配当性向やDOE等の中長期的な還元方針を中計改定時に明示するかが注目される。成長投資(糖鎖事業の開発費、大館工場の能力増強等)との資本配分のバランスが論点となろう。
総じて、同社は、コロナ特需の反動と先行投資による赤字局面を事業再編で乗り越え、黒字転換・継続企業の前提に関する重要事象等の解消・復配という3つの節目を一気に通過した再出発の局面にある。装置設置台数の拡大に伴い試薬・消耗品が積み上がるリカーリングモデルは業績の安定性と成長性を両立させる構造であり、Sysmex Europe SE社経由の欧州展開とELITech長期契約がその推進力となる。糖鎖解析という独自の新規領域も中長期の選択肢を広げよう。感染症関連の思惑で株価が振れるボラティリティの高い銘柄ではなく、リカーリング収益で業績を積み上げる企業として再認識したうえで、今後の動向を見守っていきたい。
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