かつてナチスに用いた戦術。ウクライナから「ロシア軍一時撤退」が意味するもの

 

別の懸念は、ロシアが今、北東部の部隊を容易に撤退させて再編成するのは、南部を含むウクライナの他の地域に比べて、まだまだ軍事的にmanageableだと考えた結果だった場合、ウクライナ軍(とその仲間たち)がロシア・ウクライナ国境を超えることが出来ないことを分かっていて、深みにはまらせ、その間に心理的な柱にもなっているクリミア半島を含む南部をおさえることに尽力するという戦術を取っている場合、それは本当に“再配置”に過ぎないことになり、ロシアはまた“別の戦争”を別次元で戦おうとしているようにも見えます。

これは2つ目のシナリオである“立て直しのための再編成“にもつながります。

報じられるところによると、情報戦の内容も含みますが、ロシアが北朝鮮からの武器調達を実行に移しています。一応、購入契約という形式は取っていますが、これは双方を利するディールになりかねないとの懸念です。

すでに外交の場で効果を発揮しているのが、国連安保理で北朝鮮の核開発への非難が高まり、安保理決議が模索された際、ロシアはその決議案に明確に反対し、拒否権を発動するに至っている事案です。これは今回の武器提供のお返しという側面に加え、ロシアがウクライナに侵攻して以来、一貫して北朝鮮が対ロ非難に対して真正面から反対をしてきていることへの返礼とも受け取ることが出来ます。

また北朝鮮との関係強化は、物資の輸入が事実上止められているロシアにとって、北朝鮮がもつ密輸チャンネルはこれから先、欠かすことが出来ないものになるでしょう。

ここに加わるのが上海協力機構加盟国です。中国は言うまでもなく、中央アジア諸国(カザフスタン、ウズベキスタン、キルギスタン)、モンゴル、パキスタン、トルコ、そして今回、加盟申請を行うイランなどは、欧米諸国とその仲間たちが閉ざした物資の調達の道を開いてくれる大事なパートナーとなります。

欧州への天然ガス販売の代金などにより、エネルギー資源の輸出による収入が安定的に流れ込むロシア経済にとっては、ルートがあれば、物資および武器弾薬の調達は可能になるわけで、ウクライナの反転攻勢が展開される間に時間稼ぎをして、必要な物資の調達を行って態勢を立て直すことが可能になります。

態勢が立て直された後は、恐らくこれまで約7か月続いてきた戦略と攻撃方法を大幅に見直し、ウクライナに対する攻撃を強めていくことになりますが、問題はウクライナ軍と国民、そしてウクライナを支援する各国がそれに耐えることが出来るかどうかでしょう。

そしてこの“立て直しのための一時撤退”が持つもう一つの意味合いは、ロシアがウクライナとの戦争を別次元の戦いに変えてしまう可能性です。

もしロシア軍が追い込まれていて、通常の攻撃では目標が達せられないと判断した場合、一旦、ウクライナ領内のロシア軍をロシア領内に撤退させたうえで、ウクライナにミサイル兵器などを用いた全土総攻撃をかけるという可能性です。

よく似た戦術を第2次世界大戦時の対ナチスドイツ戦で用いたそうですが、一旦、ロシア(ソ連)軍を退かせたうえで、ナチスドイツ軍を囲い込み、閉じ込めたうえで一気に攻撃を加えたという戦略です。

時代こそ違いますが、今度はウクライナに対して同じような戦略を実施する場合、ロシア軍による戦術核兵器や生物・化学兵器の使用も含めた総攻撃が実施されることも考えうる選択肢となってきます。

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