かつてナチスに用いた戦術。ウクライナから「ロシア軍一時撤退」が意味するもの

 

実際に今週に入ってアメリカ・ワシントンDCでも「あまりプーチン大統領とロシア軍を追い詰めてしまうと、プーチン大統領は戦術核兵器や生物・化学兵器を投入する方向に傾く可能性が高まる」との警戒がちらほら出てきていますし、英国の情報機関は「ロシア軍の核戦力が、開戦以降、即時展開できる状況のままスタンバイ状態に置かれている」という警戒を出しています。

すでにウクライナから手を退くことは、政治的にできなくなっているプーチン大統領にとっては、局面の打開、もしくは反転のために、戦術核兵器や生物・化学兵器を用いた別次元の戦いにレベルを高める可能性は否めないと考えます。

そのようなオプションを今後選択するかは、私は【戦争に対してロシア国民が抱く心理と認識】がカギになると考えています。

もうすぐ開戦から7か月を迎えますが、ロシア国内に住むロシア国民の多くは、【この“戦争”は今でも「国」がよそで行っている戦争】という意識で見ているようです。

確かに、メディアが報じるようにロシア国内でもプーチン大統領や政府に対する批判も出てきていますし、反戦の声も高くなってきていると言われていますが、それでも心理的にはまだ“自分たちが直接的に巻き込まれる戦争”とは見ておらず、批判にも熱がこもっていないと言えます。

ウクライナ人にとって、この戦いは自らと国の生存をかけた戦争であるのとは大違いです。

様々なバックグラウンドのロシアの人々と意見交換をしてみても、ウクライナでロシアが行う戦争に対してどこか他人事のようなコメントをする人も多くいます。

世界中から非難されることは我慢ならないけれど、その非難も一時的なもので、時間がたてば収まると考えている人が多いのには私も驚いていますが、今回、自国が隣国ウクライナで展開している戦いは、どこか遠くで行われている“国”による戦争という意識です。

もしロシア国民の大多数が、この“ウクライナでの戦争”を国境の向こうで行われている戦争ではなく、【自分たちの生命や今後に直接的に関係する戦争】と認識するようになった場合、この戦争の様相と性格が一変する可能性も出てきます。

それは、もしかしたら【一気に停戦になだれ込む】という後押しになるかもしれませんし、逆に【ロシアとその国民の生存をかけた戦争】という位置づけになるかもしれません。このどちら側に認識が寄ってくるかによって、今後の戦争の展開は変わってくるように考えます。

前者であれば、とても望ましいと感じますが、同時にかつてから囁かれるような“欧米による情報作戦”だとか、“CIAやMI6が…”という陰謀論も、ロシアとその仲間たちの間で囁かれることになり、新しい対立および世界の2極化の加速となるかもしれません。

そして、先ほどの核の問題に絡めて、アメリカ政府も【一方的にロシアが敗北するシナリオは避けたい】という思いを抱いているようです。

もし後者であれば、自身の生命の保護と生存のために、ロシアはどのような手段を用いてもこの戦争に勝たなくてはならず、そのためには持つ手段はすべて使うという方向に、感情が流れ、それがプーチン大統領とその周辺を後押しし、恐ろしい手段に訴えかけることにつながりかねません。

ロシアの国民感情の変化が与える影響は計り知れませんが、プーチン大統領とその周辺が描くウクライナとの戦争における“戦略”がどの程度、国際的に受け入れられるかは、今週、ウズベキスタンの首都サマルカンドで開催される上海協力機構の会議での議論・協議にもよります。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

 

print
いま読まれてます

  • かつてナチスに用いた戦術。ウクライナから「ロシア軍一時撤退」が意味するもの
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け