かつてナチスに用いた戦術。ウクライナから「ロシア軍一時撤退」が意味するもの

 

そしてそのカギを握るのは、プーチン大統領はもちろんですが、実際には、自らの第3期目を手中に収めたと言える中国の習近平国家主席でしょう。

自らの第3期目が決まる党大会を来月に控えるタイミングで外遊に出るというのは異例と言えますが、それはすでに3期目が確定し、政権および体制の見込みが安定したということを内外にアピールすることを目的にしていると思われます。

その習近平国家主席による外交再開の封切が今回の上海協力機構会議と言えます。

狙いは【11月にインドネシア・バリ島で開催されるG20首脳会議で欧米側と対峙するために中ロの結束を確実にしておく】というものでしょうが、中国にとっては、自らの一帯一路および中国と欧州とをつなぐ地政学的要衝ともいえるカザフスタンとの連携を深め、中央アジア地域における勢力圏拡大と基盤確立が狙いと言えます。

それを裏付けるように9月14日にはカザフスタンを訪れ、トカエフ大統領と会談し、カザフスタンが潤沢に持つエネルギー資源の確保と国家資本主義体制の強化について合意しました。

この国家資本主義体制は、中ロを軸として作られる極とも言い換えられますが、カザフスタンと、今回の上海協力機構会議の開催地ウズベキスタン、そしてほかのスタン系の国々を含む地域が一気に赤く染まることに繋がり、大きな勢力圏となります。

また今回、イランも会議に参加し、正式に上海協力機構に加盟する見込みで、そうなることによって一大経済圏ができるだけでなく、反欧米の連帯が生まれることになりますし、習近平国家主席が台湾侵攻を進める後押しになるかもしれません。

これはロシアにとっても大きな意味を持ちます。イランが加盟し、中国と上海協力機構を主導していくことで、自らのウクライナ侵攻を受けて国際市場へのアクセスが制限される中、生活物資などの国内で必要となる物資や武器弾薬などの調達網を形成することができるからです。

カザフスタンのトカエフ大統領は、自らの政治的危機をプーチン大統領に救ってもらったことは忘れていませんし、ロシアによるウクライナ侵攻とは距離を置きつつも、自国の経済を中ロと結びつけることで生き残りを図る方針ですから、参戦はせずとも、しっかりとロシアの背後でサポートするという姿勢のようです。

今回の上海協力機構会議で興味深いのは、中国と緊張関係にあるインドのモディ首相の参加です。

アジア・インド太平洋地域における中国の影響力の拡大には警戒心を高めつつも、中国との関係は切れず、またロシアとの適切な距離感も保つという複数の目的から、この上海協力機構会議をちょうどいい具合の枠組みと見なしているようです。

ロシアとの間にすでに築かれている特別な関係を維持しつつ、中ロの接近にも楔を打ちたい考えで、今回、習近平国家主席ともプーチン大統領とも会談を行い、中央アジアから南アジアに広がる地域において、特別なトライアングルを築くことで、力の均衡を図ろうとしていると思われます。

そのインドの会議への参加も、またプーチン大統領にとっては、インドの支持度合いを測るいい機会になると思われ、これまでと同レベルか、これまで以上の理解をインドから得ることが出来ると感じた場合、来週以降、ウクライナでの戦争において新たな局面を作り出す可能性が高まると読んでいます。

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