かつてナチスに用いた戦術。ウクライナから「ロシア軍一時撤退」が意味するもの

 

ロシアにとって懸念材料があるとすれば、自らの裏庭でもあるアルメニアとアゼルバイジャンの間で燻る新しい紛争の影でしょう。

9月12日深夜から13日未明にかけてアルメニアとアゼルバイジャンの間で軍事衝突が起こり、アルメニアのパシニャン首相曰く、アゼルバイジャン側からの無人ドローン攻撃や迫撃砲による攻撃でアルメニア側に49名の死者が出たとのことですが、今後の展開によっては、中央アジア・コーカサスにおける国家資本主義体制の基盤確立に走る戦略に待ったをかけるかもしれません。

その危険性に気づいたからか、それとも2020年11月にプーチン大統領の仲介によって停戦が成立したことに対する責任感からか、ロシアが早速仲介に乗り出すことになりました。またアメリカのブリンケン国務長官も即時停戦を求める中、ロシアに役割を果たすように依頼しているようです。

ただこのナゴルノカラバフ紛争の再燃はいろいろな憶測を生みます。この調停プロセスに私自身が関わったということもありますが、同時に停戦合意後の状況が、同じく調停に携わったコソボにおける状況に似ている気がして懸念しています。

そして無人ドローンの投入があったことで、本当にこれが2国間の衝突と結論付けていいのか迷うようになりました。

アゼルバイジャン側に勝利をもたらしたのはトルコから供与された無人ドローン兵器とトルコからの軍事面での後ろ盾と言われていますが、それは同時に、アルメニアと軍事同盟を持つロシアに妥協を強い、調停の場に引きずり出しただけでなく、トルコの中央アジアでの影響力拡大をロシアに容認させるというトルコの外交的な勝利とも特徴づけられます。

今回の軍事衝突ですが、どうして上海協力機構会議が開催される直前に起こっているのでしょうか?

単なる偶然でしょうか?

いろいろな情報に触れてみると、トルコの関与が透けて見えてきます。アゼルバイジャンに手を出すなというメッセージと、トルコによる中央アジアへの影響力拡大の確認をロシアに行い、かつアルメニアにそれを明示するという狙いです。

ゆえにロシアも迅速に対応し、今、非常に外交・安全保障上、デリケートな状況に置かれていることを自覚したうえで、調停に名乗りを上げることで、トルコにメッセージを送ったようにも思われます。

その答えの一端は、恐らく上海協力機構首脳会議が終了した後に見えてくると思われます(トルコも今回の会議に参加するため)。

また国際情勢が非常に複雑かつ混沌としてきたように思います。日本ではこれから3連休を迎えますが、その連休が明けた後、どのような展開が待っているのか、非常に懸念しています。

以上、国際情勢の裏側でした。

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