ロシア国内では、部分動員という強制徴兵で前線に送られた息子、夫の帰還を要求し、母親や妻たちが全土で抗議集会が頻発している。地方議会議員も次々「反戦声明」を出し始めて、このままにすると反戦運動が盛り上がり、プーチン政権が崩壊する危険もある。
この危険な抗議活動に対して、マスコミに戦時検閲を導入し、敗戦ムードの打破が急務だとして、ロシア国営TVは、「これらの女たちは国賊だー」と叫んでいた。
しかし、ヘルソン州都からの撤退では、一転ロシア国営TVのソロビヨフは、ロシア政府のプロパガンダ拡散役を担っているが、「歴史的敗戦」と悲壮ムードで述べた。
だがソロビヨフは、ロシア軍の決定は賢明だと擁護し、プーチンや軍幹部を直接批判することはなかった。しかし、今後もロ軍劣勢を覆す方法もないので、停戦に向かう下地を作り始めたようだ。
そして、ロシアの停戦条件は、米国が仲介するなら、アジアの某超大国へのけん制をロシアも行うと提案したようである。米国は最優先安全保障問題は、中国の台湾進攻を留めることであり、ロシアの中国包囲網への参加は喜ばしいことではある。そして、先端分野での競争もないのでロシアが米国の脅威にもならないし、ウ軍にぼろ負けするロ軍に軍事的にも脅威を感じない。
もう1つ、台湾有事が、今起きると、米軍の弾薬不足が深刻になり、韓国軍の弾薬も少なく、北朝鮮の侵攻もあると東アジアで二正面に対応することも余儀なくされ、ウクライナ戦争どころではないことにもなる。
一方、ロシアは、中国から支援されるとみていたが、それもなく、非常に冷たい対応で、中国に対して、非常に面白くない感情がある。それと中央アジア諸国に対して、反ロ的な対応を中国が唆しているとみている。この面からもロシアは反中的になっている。ということで、対中で米ロの利害は一致しているのだ。
ということで、そろそろ、停戦交渉を開始するフェーズにきているようである。
このため、米国に促されて、ゼレンスキー大統領も、ロシアとの和平交渉を開始する前提として、「ウクライナの領土保全の回復」や「二度と(侵略)しない保証」など5項目を挙げ、「ロシアを強制的に交渉の席に着かせることが重要だ」と訴えた。この5項目には、プーチン政権ではないことがなくなっているので、プーチン政権とも停戦交渉を行うことになる。
このゼレンスキー氏がロシアに求める和平交渉の前提は、次の通り
- ウクライナの領土保全の回復
- 国連憲章の尊重
- 戦争による全損害の賠償
- すべての戦争犯罪人の処罰
- 二度と(侵略)しない保証
対して、パトルシェフ安保書記が中心に和平案をまとめ、「プーチンがこの和平交渉案を受け取った。数日中に議論する予定」とロシア対外情報庁の将官が言及した。その内容が
- ウクライナ領からロシア軍完全撤退
- 7年間NATO非加盟
- 6ヵ国で相互不可侵を監視
ロシア軍撤退があり、この情報が事実だとしたらロシア側も妥協を考え始めているようだ。裏では米国の意向も調べているし、米国は、この案をゼレンスキー大統領に見せているはず。
対して、ロシア国内では、フリゴジンが、ワグナーが占領したウクライナ領土は、ワグナーの土地であり、誰にも渡さないと不満を述べている。これに対して、ワグナー・センターの建物使用許可をロシア政府は出さないなど、強硬派対政権の熾烈な権力闘争が繰り広げられている。
プーチンの判断待ちであるが、結局、和平案の方向でロシアは、準備し始めたし、下打ち合わせを米ロは秘密裏に行っているようである。
さあ、どうなりますか?
(『国際戦略コラム有料版』2022年11月14日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
この記事の著者・津田慶治さんのメルマガ
image by: The White House - Home | Facebook