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オキサイド、高品質単結晶育成と波長変換で高いシェア獲得、通信・微細加工、パワー半導体も次なる事業の柱に

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2022年5月28日にログミーFinance主催で行われた、第36回 個人投資家向けIRセミナー Zoom ウェビナーの第3部・株式会社オキサイドの講演の内容を書き起こしでお伝えします。

本日のご説明内容

古川保典氏(以下、古川):株式会社オキサイド代表取締役社長の古川でございます。本日はよろしくお願いいたします。

まず、私どもの経営理念とコア技術、M&Aや業務提携への取り組み、昨年度から今年度までの売上高・営業利益の推移についてご説明します。次に、メインの半導体、ヘルスケア、光計測の3つの事業について、そして、私どもが力を入れている研究開発活動、特に今期の注力分野をご説明します。

加えて、事業ポートフォリオイメージ、 M&A・スタートアップ投資、SDGsへの取り組みについてお話しします。

経営理念

古川:まずは経営理念です。私どもは筑波の国立研究所(NIMS)発のベンチャー企業です。みなさまはあまり聞き慣れないかもしれませんが、単結晶という材料、そしてレーザ光源の装置を作っており、グローバルニッチトップカンパニーを目指しています。

もともとが国立研究所発のベンチャーですので、大学や企業で得られた優れた研究成果を社会に還元することを理念としています。

また、私どもは材料を重要視しています。以前は、大手家電メーカーでも材料を扱っていたのですが、最近は多くが撤退し、事業がハードからソフトに移っています。

しかし、優れた材料がイノベーションを起こす上で重要と考え、マテリアルソリューションを提供し、世の中の発展に貢献することも理念としています。

そして、先ほどイノベーションとお伝えしましたが、最近はよく「ゲームチェンジ」と言われているように、未来の市場機会を創造することが非常に重要です。以上の3つを経営理念としています。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):会社は設立から順風満帆だったのでしょうか? 会社設立のきっかけは研究所からというお話ですが、それも含めてもう少し教えていただけたらと思います。

古川:一生懸命取り組んでいたのですが、まったく順風満帆ではなかったです。会社は2000年に創立しましたが、当時は、大学教授や研究者は研究のみしていればよいという状況でした。ですので、ベンチャーを起業するのはお金儲けのためと見られ、支援もほとんどなかった状況です。

ベンチャーキャピタルも日本では最近になって活発になってきましたが、当時はほとんどありませんでした。私たち自身も資本政策の重要性を理解していませんでした。本社は建設工事現場に置いてあるような小さなプレハブ小屋を借りていました。3人で事業を始めたのですが、最初の5年くらいを振り返ると「一体いつも何をもがいていたのだろう?」と思います。

潰れそうな時もありましたが、5年目に株主が大きく変わったことをきっかけに心機一転で本社を移転し、ようやく本当のスタートとなりました。

坂本:そのような中で開発された製品や歴史について、続けてお話をお願いします。

当社のコア技術 ― 高品質単結晶育成と波長変換

古川:私どものコア技術をご紹介します。スライド左下に、さまざまな結晶の写真があります。「 LGSO」「GPS」「YIG」などと表記してあり、何のことかわかりにくいかもしれませんが、実は結晶は比較的みなさまの身近なところで使われています。

例えば、水晶やサファイア、エメラルド、ルビーなどは、キラキラ光る美しい天然物で、地球の中で何万年もかけて作られます。私どもはそのような結晶を人工的に、速いもので1日、長いものでも数ヶ月くらいかけて作ります。

坂本:天然のものは、ものすごく時間をかけてできていくものですよね。

古川:何万年もかけてです。それを1日や数ヶ月で作るため、とても効率的なのですが、温度は低いもので1,000度くらい、高いもので3,000度以上に加熱して成長させます。

坂本:素材によって、適する温度が変わってくるのですね。

古川:そのとおりです。スライドにある写真のものも素材により温度、サイズも違い、形もまったく違います。そのようなものを作るには、CZ法やFZ法などいろいろな方法があります。私どもはそのほとんどの方法や装置を有しているのが特徴的なところです。

坂本:結晶を作る物質に合わせてずっと研究しており、ベストを探りながら作っていくのですね。その用途を含め、スライド右側のご説明をお願いします。

古川:結晶はキラキラ光って本当にきれいで、プリズム結晶に光を通すと色や方向が変わったりします。そのため、いろいろな光の分野で使われています。光通信では、結晶に情報を載せ、電気信号を光の信号に変えたりしています。

スライド右側の波長変換技術ですが、実は、目に見えない赤外光を結晶に入れると、なんと緑色の光に色が変わってしまうのです。波長が変わると、色が変わります。そして、今度は緑色の光を結晶に入れると紫外光になり、1,064ナノメートルから532ナノメートル、そして266ナノメートルと、波長が半分、そして4分の1になります。

紫外線の光にはいろいろな用途があります。コロナ禍では、殺菌、滅菌するには紫外線がよいと言われていましたし、例えば眼のレーシック手術にも採用されています。また、 シリコンウエハの欠陥検査など、半導体の分野でも紫外線はよく使われています。

ところが、紫外光を直接出すのは大変難しく、紫外光を作るためには結晶を使って可視光を紫外光に変えることが必要になります。先ほど、いろいろな結晶を作っているとお話ししましたが、その中でもスライドの下部で示している丸い形と四角い形の結晶が、紫外光を出すのに必要です。私どもはこの結晶で世界の95パーセントのシェアを占めています。

つまり、この紫外線レーザを作るメーカーがどうしても使わざるを得ない、そのキーとなる結晶を私どもが作っています。これが私たちのコア技術と製品です。

M&A、業務提携への取り組み

古川:私どもは国立研究所で得られた結晶の実用化をめざして起業したベンチャーでありながら、M&A、業務提携を積極的に行ってきました。大手企業では、一事業で数百億円の規模がないと事業にはならないということで、多くの企業が結晶事業を撤退してしまい、私たちはその事業を引き受けてきました。

ポイントは、引き受けた事業に加え、その事業に関係した優秀な人材を大手から集めてきたことです。私どもの7割近くのメンバーがその大手から転職した人材です。

2010年に「マグネスケールよりレーザ事業買収」とありますが、2010年に、ソニーの子会社のソニーマグネスケールから先ほどの紫外線のレーザ事業を買い取りました。これが現在の半導体事業として、育っています。

2015年には日立化成からシンチレータ単結晶事業を買収し、これがヘルスケア事業となっています。それ以外に、アメリカのスタンフォード大学のベンチャーから真空紫外レーザ事業を買い取ったり、3年前にはデンマークのNKT Photonicsと業務提携、2年前にはベルギーの企業と業務提携しました。

昨年は名古屋大学発ベンチャーのUJ-Crystalと、今年は横浜国立大学発のベンチャーに出資を行い事業を支援しています。単結晶と光を扱っている会社として、このように積極的にM&Aや業務提携を行い、事業拡大してきたのが私どもの経緯です。

坂本:光と単結晶を両立しているということですね。

売上高、営業利益の推移(2021年2月期~2023年2月期)

古川:売上高、営業利益の推移です。2022年2月期の売上高は、前年比32.9パーセントの増収で、今期は前年比33.3パーセントの増収を計画しています。営業利益は、2022年2月期が前年比63.2パーセントの増益、今期は前年比18.3パーセントの増益の7億600万円となっています。

事業ベースの比率は、光計測が十数パーセント、半導体が50パーセントほど、ヘルスケアが約35パーセントとなっています。

坂本:売上の伸びは、やはり半導体が活況のためなのですね。

古川:そのとおりです。半導体はとても活況で、この状況はしばらく続くのではないかと予想しています。

事業概要

古川:事業概要です。私どものコア技術である結晶を活かしたさまざまな研究開発を行っていますが、光計測・新領域事業は新しい事業の芽を出すことが目的です。

坂本:第4、第5の事業とありますが、どのようなイメージを持っていますか?

古川:例えば、半導体事業は売上の50パーセントを占めるとお話ししましたが、もともとは光計測・新領域事業として始まり、量産化したものです。そのような意味では、ヘルスケアも光計測・新領域事業から量産化したもので、これが現在の第2、第3の事業となっています。第4、第5はこれから創る新しい事業でして、この後、詳しく説明したいと思います。

【半導体事業】概要

古川:まず、半導体事業の概要です。今、スマートフォンやパソコンはもちろんですが、さまざまなデータをクラウド上で扱えるようにするため、データセンターは大変伸びています。先ほどもお話ししましたが、特に半導体は活況です。

直径が300ミリメートルのシリコンのウエハを使っているのですが、このウエハにパターンニングし、最終的に半導体の素子であるメモリやプロセッサを作ります。その製造工程において、歩留まりを上げるために、シリコンウエハ上の欠陥やゴミなどを検査することが非常に重要です。

そのため、毎日のように新聞記事に載るような、Intel、Samsung、TSMCなどの半導体の製造メーカーがシリコンウエハを検査しています。そこには半導体Siウエハの検査装置があり、その検査装置に私たちの結晶と紫外レーザが載っています。

技術のトレンドとしては、メモリの容量が膨大になり、プロセッサの性能が上がるなど、半導体のパターンは微細化が進んでいます。パターンの線幅は20ナノメートルから7ナノメートル、5ナノメートル、最近では2ナノメートルまで小さくなっており、線幅が小さくなると集積化が進んで性能が上がります。

ウエハの欠陥の検査にも短い波長の紫外線が必要でして、数年前までは355ナノメートルの光が使われていたのですが、今では主流が266ナノメートルと、短波長化が進んでいます。

そして、メンテナンスです。私どもはレーザ製品を販売していますが、最終ユーザーの工場では24時間、365日使います。そうすると、1年くらい使うとレーザがどんどんへたってくるのです。

坂本:結晶でも、使い続けるとやはりへたってきますか?

古川:かなりの高出力の紫外線レーザですので、人間も紫外線に当たると日焼けしますが、結晶も紫外線を出しながら自分自身が日焼けします。そのため、やはり1年くらいで交換しなくてはいけません。

坂本:スライドには「メンテナンス売上」と記載がありますが、交換というイメージですか?

古川:そのとおりです。結晶もそうですし、その周りの部品の寿命は約1年です。

坂本:メンテナンスの売上も、半導体事業の好調につながっていますか?

古川:例えば、今年1台販売し、来年以降も1台ずつ新規で販売したとします。メンテナンスは車検のようなもので、1年後にはメンテナンスは1台、2年後には2台、そしてその後3台と、どんどん累積で増えるため、売上も拡大します。

坂本:パーツによって違い、一概には言えないかもしれませんが、メンテナンスの利益率と、最初に商品を販売した時の利益率はどちらが高いのでしょうか?

古川:大まかに言いますと、利益率はメンテナンスのほうが高めです。ですので、リカーリング的にビジネスモデルの収益を生み出す構造となっています。

坂本:先ほど、結晶のシェアが非常に高いとうかがったのですが、メンテナンスは取り替えになるため、基本的に他社がメンテナンスすることは不可能というイメージですか?

古川:おっしゃるとおりです。私どもの単結晶以外では、最初の性能を維持するのは非常に難しいです。

坂本:そこが参入障壁と言いますか、強みの1つになっているということですね。

【ヘルスケア事業】概要

古川:ヘルスケア事業についてご説明します。できるだけがん細胞が小さいうちに発見することは大変重要です。スライドの模式図にあるように、PET検査では患者がベッドに横たわり、ドームの中を通りながら検査します。その装置の内部に、私どもの結晶が使われています。

スライド中央にあるのは「シンチレータ単結晶」という長さ300mmの大きさの結晶です。この結晶からマッチ棒くらいの素子を切り出して磨くのですが、1台の装置にこのような素子が2万個から3万個入っています。

PET検査装置が1台売れるごとに数千万円の売上になります。PET検査装置はおおよそ数億円するため、そのような意味では一番重要な部品といってもよいくらいの大切な結晶です。

坂本:「シンチレータ単結晶」は、御社のシェアが高いのでしょうか?

古川:私たちは最後発のメーカーで、数年前のシェアは0パーセントでしたが、現在は20数パーセントになり、どんどんシェアを上げております。

坂本:性能はもちろんですが、価格競争力が求められるのでしょうか?

古川:私どもの製品は、競合他社と比較しても価格は特に安くありません。大切なのは性能だと思います。

この結晶は全身用のPET検査装置にも使われていますが、乳がん検査専用のマンモPETにも使われています。また、最近になって、PET検査はがんだけでなくアルツハイマー、つまり認知症検査にも有効ということがわかってきました。

実はがん患者の数よりも、アルツハイマーの患者の数の方が多い状況です。アルツハイマーの治療薬はなかなかできていませんが、開発され治療できるようになると、ヘルスケア事業は急激に拡大すると期待しています。

坂本:ヘルスケア事業は日立化成から事業を譲り受けたとうかがいました。日立化成から取り込めたのは、スライド右の「事業展開」の部分でしょうか? もしくは他に何かあるのでしょうか?

古川:スライド左の「シンチレータ単結晶」です。日立化成でも作られていたのですが、うまく量産製造できずやめたという経緯があります。

【光計測・新領域事業】概要

古川:光計測・新領域事業についてです。もともと創業時の事業で、いろいろな結晶を作っています。波長変換する結晶や、「蛍光体単結晶」という黄色い光を出すもの、「アイソレータ用単結晶」は5Gなどの光通信に使える結晶です。

このような結晶を作ってきましたが、結晶だけでなく、ウエハやチップにしたり、素子で販売しています。さらにそれをモジュール化し「光部品」にして販売したり、「レーザ光源装置」にしたり、自分たちの強みを垂直統合でどんどん川下に活かしてきたのがこの事業です。

研究開発活動

古川:今後、企業価値を上げ、成長していくためには、やはり研究活動が重要と捉えており、かなりの費用と人員を投資しています。先ほど、光計測・新領域事業の売上高は十数パーセントとお伝えしましたが、全社の30パーセント近いメンバーを開発研究に投入しています。

パイプラインは15個挙げており、その中の8つの例をこのスライドで紹介しています。グローバルでニッチなマーケットは、非常に注目されている5Gに使う結晶や、放射能汚染モニタです。福島原発事故がありましたが、今後のエネルギーの問題により原発が再稼働すると、ますます重要になってきます。

競争優位性が期待できるマーケットとしては、「MicroLED」などです。有機ELなどが大画面になり、今は「MicroLED」が次世代のディスプレイとして注目されています。その加工やリペアに、「フェムト秒レーザ」というものが使われています。

その他は、車の「レーザ照明」や「パワー半導体」などに力を入れて、研究開発を進めています。

事業ポートフォリオイメージと2023年2月期 注力分野

古川:スライドは、現在の事業ポートフォリオと、3年後のイメージです。注力分野として4つ考えています。1つ目は、既存事業である半導体事業とヘルスケア事業について、さらにシェアを上げて、3年後には事業規模を拡大します。

2つ目は、通信や微細加工分野の新製品の販売です。光計測・新領域から新しく「通信・微細加工」が増えています。

3つ目はパワー半導体の分野で、研究開発したものを事業として新しく追加していきます。パワー半導体については、後ほど詳しく説明させていただきます。

4つ目に、私どものようなディープテック分野における、スタートアップ企業への投資と支援です。

このようなことを、注力分野として進めていく予定です。

坂本:スライドの図では、今後の事業展開の売上規模の拡大や見込みは、売上のイメージでしょうか? もしくは利益も合わせていますか?

古川:売上のイメージです。

坂本:第3、第4の事業が、通信・微細加工とパワー半導体ということですね。

古川:そのとおりです。

成長を加速させるM&A・スタートアップ投資への取り組み

古川:特に注目しているのが、M&Aとスタートアップへの投資です。最初にお話ししたとおり、私どもは研究成果を社会実装することを理念にしています。

最近は、さまざまな優良ベンチャーが数多く設立しています。大学発ベンチャーの多くがIPOしていますが、私の考えでは、ソフトウェアやバイオの会社と、私どものようなディープテックのハードウェアのビジネスでは、経営手法がずいぶん違います。

最近ではベンチャーキャピタルから多くの出資金が入りますが、組織作りや営業など、会社運営の面でいろいろな課題がありますので、私たちはそのようなところをサポートしたいと考えています。特に、材料やレーザなどに関連する分野のベンチャーに出資して、そこの成長の一助になるようなことを進めています。

坂本:御社の今までの経験によって、アドバイスできる立場になったということでしょうか?

古川:私どもも、最初の5年くらいはいろいろな問題を抱えていましたが、どこの企業でも最初は同じような悩みがあると思います。

坂本:御社のサポートが入ることで、加速する可能性があるということですか?

古川:余計なトラブルの解決をサポートし、本当に大切な製品開発と事業化に集中できるような環境にしてあげたいと思っています。

坂本:昔から社内にそのようなことに詳しい人が多いということですか?

古川:いろいろな知識を持つ人たちが集まってきて、これまでそのような経験を重ねてきました。

【パワー半導体】SiC単結晶 グリーンイノベーション基金事業(GIF)

古川:その支援先の1つが、昨年10月に投資した名古屋大学発のベンチャーであるUJ-Crystalです。こちらでは、今非常に注目されているカーボンニュートラルの実現に必須なパワー半導体用の結晶を作っています。

UJ-Crystalを支援して、「一緒に開発をしましょう」となったのですが、開発資金が非常にかかることが課題でした。そこで、経済産業省が公募したグリーンイノベーションファンドに応募したところ採択され、私どもとMipox、名古屋大学、UJ-Crystal、アイクリスタル、そして国立研究開発法人産業技術総合研究所のコンソーシアムで、8インチのN型・P型の高品質SiCウエハの事業化に取り組みます。

実際にデバイスを実証してもらう提携先は三菱電機や日立製作所などで、そちらと一緒にプロジェクトを行っていきます。

【パワー半導体】SiC単結晶ウエハ国内生産体制構築の重要性

坂本:グリーンイノベーションのファンドに採択されたということで、コンソーシアムが成功したことも含めて、今後のパワー半導体の展望や、将来の展開のようなものがあれば教えてください。パワー半導体に注目している個人投資家は多く、おそらく日本の希望のようなところがあると思います。

古川:スライド15ページでご説明します。カーボンニュートラルではCO2排出を防ぐことが大切です。加えて、電力は、発電所で発電して送電し、電気自動車などで使われるまでに、かなりのロスがあります。パワー半導体が使用されているところも、今のところ電力のロスが大きいのですが、このロスを半分くらいにしようとしています。発電量を多くしてもエネルギー効率がよくなるため、この取り組みはとても重要です。

パワー半導体は電気自動車に使われるなど、さまざまな場面で出てきます。スライド下部に記載しているシェアを見ると、日本はかなりよい位置にいます。売上シェアの1位と2位はドイツとアメリカですが、3位、5位、6位、7位は日本のメーカーで、全体の3分の1以上を占めています。

坂本:今後、このようなウエハの研究開発が進み、画期的なものが出たりすると、素材の部分では、現状をひっくり返せる可能性があるということでしょうか?

古川:ひっくり返せる可能性もありますし、ひっくり返されてしまう可能性もあります。スライド左側の円グラフがパワー半導体のシェアで、いわゆる部品のシェアです。この部品を作るためには、SiC単結晶ウエハが必要ですが、このシェアはアメリカとドイツにほぼ占有されており、日本のシェアは小さく大きな問題です。

アメリカのメーカーは、よい結晶やウエハは自らで使い、日本のメーカーにはよいものを回してこないと聞きますし、そのような状況が続けば、日本のメーカーはよい部品が作れません。

これは戦略的に重要ですので、日本政府や経済産業省が「SiC単結晶ウエハに力を入れよう」と、このファンドを立ち上げたと聞いています。

【パワー半導体】実用化早期実現に向けた取り組み

古川:ウエハを作っているメーカーはすでにあるため、同じものを作ってはただの真似となってしまいます。そのため、私たちは従来の方法とは違う溶液法で量産化に取り組んでいます。スライドに記載しているのは、名古屋大学で研究開発された成果を社会実装するという大きなプロセスです。

このようなものを作る時にはプロセスの開発に時間がかかりますが、最近話題の人工知能(AI)が、実際にものを作るところでも使われ始めています。これまで多くのパラメーターを考えて試行錯誤していたところが、AIを適用することにより実験の効率が向上します。このように、プロジェクトの期間内に量産を立ち上げることができるように取り組んでいます。

坂本:溶液法に期待している方は、かなりいると思います。溶液法がうまくいけば量産化と言いますか、日本に材料がないといった問題も解消できるということでしょうか?

古川:溶液法のよいところは、欠陥密度を減らせるところです。つまり、品質のよいSiC結晶を提供できるため、良質なデバイスを作ることができます。現在、大学では6インチまでできていますので、これをいかに量産し、大きく作るか、安く作るかといったことが今回のプロジェクトでのテーマです。

坂本:6インチは、大きいのでしょうか?

古川:かなり大きいです。

坂本:海外で作られている平均的なものは、何インチなのですか?

古川:海外でも6インチが平均で、8インチが出始めています。

坂本:大型化や量産ができると、素材競争力が高くなるということですね。

【量子暗号通信】LQUOM社が目指す量子暗号通信の実用化

古川:スタートアップへの投資の2つ目として、2週間前に横浜国立大学発ベンチャーのLQUOMという会社に出資しました。ここは量子暗号通信に取り組んでいます。

データ通信の際には、盗聴防止などのセキュリティがかなり大切です。現在は、データを送る時に暗号化して送りますので、高いセキュリティがかかっています。今のコンピュータでこの暗号を解くには、1年くらいかかります。

しかし、量子コンピュータが出てくると、本当に短時間で暗号を解かれてしまうため、セキュリティの問題が出てきました。2026年、2030年には量子コンピュータでも盗聴されないような量子暗号通信を実用化するという動きが、アメリカやヨーロッパ、中国、日本で盛んに進んでいます。

現在の量子暗号通信技術では30キロメートルくらいの長距離で中継機器が必要です。その中継機器の中に、私どもの結晶が使われており、共に実用化を目指すというのが2つ目の投資案件です。

坂本:御社は多くの技術者がいますので、これにも対応できると思いますが、直接的なシナジーはいかがでしょうか? 単結晶と光というのは、少しずれているように思いますが、どこかでくっつくようなかたちなのでしょうか?

古川:オキサイドと量子暗号通信はまったく関係なさそうに見えますが、量子暗号通信の中継器にはメモリが必要で、中継器のメモリにオキサイドの結晶も使われています。また、送る時にある波長の光を作らなければいけないのですが、そこでも先ほどの当社の波長変換結晶が使われています。

私どもの結晶とレーザは、一般の人々が目にされるようなものではないのですが、社会を支えるようなバックボーンで使われているということです。

SDG’sの取り組み

古川:SDGsの取り組みですが、カーボンニュートラルは、非常に重要なテーマになっており、先ほどのSiCのパワー半導体はまさにこれを実行するものです。そのほかに地域貢献として、特に地元山梨県の小学生みなさんの社会見学や講演、あるいは高校、大学への寄付、雇用の創出など、地域へさまざまな面で貢献したいと考えています。

坂本:SDGsへの取り組みについて、カーボンニュートラルや地域貢献を挙げていますが、今後の取り組みがあれば教えていただきたいと思います。

古川:昨年、地域との交流などが非常に重要だということを認識し、今後もさらに、このようなイベントや機会を増やしていきたいと考えています。

坂本:山梨県の地域貢献活動について、山梨には工場もたくさんあると思うのですが、その理由を教えていただけたらと思います。

古川:山梨で起業し、これまでずいぶんお世話になってきたため、まずはそこからと考えています。

坂本:山梨県と言いますと、水などの資源や自治体における優遇も含めて、何かあったのでしょうか?

古川:山梨県は結晶関係の産業がかなり盛んです。近くに昇仙峡という非常に美しい場所があり、そこでは江戸時代に非常に良質な水晶が採れていました。そのため、山梨は水晶の研磨や加工、ジュエリーなどの宝飾産業が日本で一番盛んな県です。

坂本:そのような背景があるのですね。

古川:山梨県には宝飾産業だけではなく、さらに21世紀の光の産業に育てていきたいという強い思いがあり、これまでずいぶんサポートいただきました。

結晶と光で社会に貢献する Crystal Miracles by OXIDE

古川:事業について簡単にご紹介しましたが、私どもの祖業の結晶と光の技術により、半導体、医療、パワー半導体、ディスプレイ、自動運転、5Gと、これからの社会を支える非常に重要な分野に貢献していきたいと思っていますので、ぜひよろしくお願いします。

質疑応答:セグメント別の増員予定について

坂本:今後、増員予定の人員は、セグメント別にどのような割り振りで考えていますか?

古川:今すべての事業において人が足りない状況で、毎週1名、2名採用しています。そのため、どのセグメントに何名ではなく、足りないところへ割り振りしている状況です。

坂本:御社は研究開発の会社で製造も行っていますが、研究者は専門分野にずっと取り組むのでしょうか? 別の分野に移ることはありますか?

古川:どちらかと言いますと、研究者はあまり移りたくない傾向が強いです。

坂本:専門分野をずっと突き詰めたいということですね。

古川:好きなことを突き詰めたいという人が多く、もともと大手の企業で活躍されていたのですが、大手が事業から撤退する時に好きなことを継続したいと移ってきた人たちです。本当にプロの技術者ですね。

質疑応答:ルネサスのパワー半導体工場再稼働と国内の市場需要について

坂本:ルネサスが山梨県でパワー半導体の工場を再稼働する報道がありました。国内市場の需要について、これは世界の需要もかなりあるとは思うのですが、それも含めて教えていただきたいと思います。

古川:先日、ルネサス山梨工場を閉鎖していたものを再稼働させるというニュースがありましたが、そのくらい国内で半導体を作ることは重要だという話です。そちらで作るものはTSMCなどのような最先端の半導体ではないと聞いていますが、自動車用の半導体が足りずに車を生産できない状況ですので、ルネサスが再稼働して国内で半導体を作るというのは非常によい流れだと思っています。

坂本:需要が国内でも高まっているということですね。

古川:米中の貿易摩擦や台湾の問題が根底にあります。アメリカは台湾のTSMCを誘致し、インテルもアメリカやスペインに工場を作るなど、いろいろな動きが盛んになっています。日本はもともと半導体が盛んでした。国内でもSONYとTSMCが工場を熊本に作る動きがありますし、大変重要だと思います。

質疑応答:製造拠点を国内に持つ理由について

坂本:御社が自社の製造拠点を国内に持つ理由を教えてください。海外は量的なものが問題なのでしょうか? 先ほども、国内で作ることは大事という話はありましたが、それを含めて教えていただけたらと思います。

古川:国外で作るべき理由がなかったことと、安いものを大量に作るというビジネスモデルではないため、海外での生産は考えませんでした。現在は為替も不安定ですし、国内で作るという姿勢が重要だと思います。

坂本:海外に輸出する場合は、決済は円、それともドルですか?

古川:ほとんど円建てで行っています。そのため、為替の影響はあまりありません。

坂本:極端にあるというわけではないということですね。

古川:どちらかと言いますと、円安はトータルではプラスに働いています。

坂本:そこは「円安が進んだら価格調整してもよい」というようなことはあるのでしょうか?

古川:結晶を作るための原料などいろいろな部材を輸入しています。円安の影響で調達コストが上がっているため、お客さまにご理解いただき値上げも一部進めています。

坂本:以前、値上げは難しいと言われていましたが、環境的には、以前と比べて通りやすくなりましたか? 

古川:競争力があるものについては、お客さまには事情をよく理解していただけていますので、値上げは比較的すぐに通ります。むしろ、「価格よりもとにかく数量を安定に供給をしてほしい」という要望のほうが多いです。

坂本:供給のキャパシティですが、国内の工場は足りていますか? それともフル稼働の状況ですか?

古川:フル稼働です。先ほどお話しした半導体のメンテナンスは、毎年のように横浜で建屋や設備を増やしているのですが、それでも足りないため、山梨にメンテナンス専用の工場を建設中です。

坂本:結晶は新しく作り、周りの部分をメンテナンスするということですよね。

古川:レーザの販売が増えると必要な結晶も増えるため、結晶も増産しています。また、昨年上場したときに資金調達をした一部はヘルスケア事業にも投資して生産設備を増やしています。

坂本:そちらで需要増に対応しているということですね。

質疑応答:人材について

坂本:人材についてです。先ほどプロの研究者や、専門の方が集まる会社だというお話をいただいたのですが、専門で仕事を求めて山梨に来るというかたちでしょうか?

古川:山梨でも横浜でもアメリカでも、仕事をする場所は気にしないと思います。

坂本:そのような熱意がある方が多いということですね。

質疑応答:海外拠点を設ける意思について

坂本:海外拠点を設ける意思はありますか? 円安ではなかなか海外に出にくい部分があると思いますが、いかがでしょうか?

古川:現在でも私どもの売上の75パーセントくらいは海外です。海外に販売拠点や、設備拠点があるわけではないのですが、特に問題なく売上も増やしています。海外にはいろいろなビジネスチャンスがあるため、単純に拠点を作るのではなく、海外メーカーとの提携を意識しています。そことの提携を強めていくほうが現実的で、効率的だと考えています。

坂本:BCPの観点もあるとは思うのですが、国内では、横浜もありますが、山梨以外は検討されているのでしょうか?

古川:そのような検討も始めています。

質疑応答:今後有望な新規事業分野について

坂本:今後の新規事業分野で有望だと思うものを教えてください。

古川:パワー半導体は先ほどご説明しましたが、結晶ウエハのみで、マーケットはワールドワイドで630億円あります。2年後には1,030億円、4年後には1,300億円と、2年で倍くらいの急成長が見込まれる分野です。ここでいかに確実な売り上げを立てるかということが、私どもにとって大きなインパクトになります。

坂本:かなり大きいですね。

古川:さらに、MicroLEDは、これからみなさまは間違いなく使うようになります。しかし、これの製造は難しいため、製造過程でリペア加工することが必要になります。そのツールとして、紫外光のフェムト秒レーザが使われます。紫外線レーザは、先行メーカーでもなかなか安定したものを作れていないため、ここにもビジネスチャンスがあります。

もう1つは、5Gです。2年くらい前5Gは盛んに投資されました。5Gになってもスピードが速くなったという実感があまりないかもしれませんが、コロナ禍が一段落して、投資が復活しマーケットが拡大しようとしています。

山梨の本社近くの第6工場は、5G向けの単結晶を量産するために購入しました。すでに開発がスタートしており、早めに寄与することを期待しています。

坂本:まだ完全に5Gになったわけではなく、これから増えてくるということですよね。その後の技術もこれが敷設されないと発揮できない部分があります。

古川:さらに、次の「ビヨンド5G」の研究開発も進んでいます。

坂本:それも日本は少し強いというか、力を入れて取り組んでいるという話をうかがっています。そこも御社の製品が使われるのでしょうか?

古川:そのようなものに使えるような製品開発も進めていきたいと思っています。

坂本:将来の種まきをしながら、実際の強みを伸ばす経営をされているということですよね。

古川:特別ではない進め方かと思います。私どものような物作りの事業においては正攻法ではないかと思います。

坂本:逆に死角と言いますか、おそらく経済環境はあると思うのですが、ここがあったらまずいというようなことはありますか?

古川:新型コロナウイルス拡大がありましたが、その影響はほとんどなく事業は拡大しています。ただし、ロシアのウクライナ侵攻などがあり、一部原材料が入りにくくなったり、電気代が高くなることがあります。そのような地政学的な影響にも注意しながら進めていかなくてはいけないと考えています。

坂本:私もあまり詳しくないのですが、非常によくわかりました。

古川:結晶と光はなかなか難しいですが、夢のある楽しい分野です。

坂本:おそらく見ている方も非常にイメージが湧いたのではないかと思っています。

古川:そう言っていただけるとうれしいです。

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