fbpx

なぜ政府は「脱デフレ宣言」を避けるのか?日銀利上げで経済はすでに正常化、日本復活の日は近い=勝又壽良

米国で日本企業が投資首位

日本は、「ゼロ金利」「マイナス金利」に象徴されるように、金利のない世界であった。金利のない世界は、無風状態を意味する。ビジネスチャンスが生まれないのだ。こうして企業活動は、国内よりも海外へ向っていった。例えば、米国での対内直接投資では、日本企業がトップになっている。日本国内で行うべき投資が、米国で行われていた。その実例を見ておきたい。

米商務省によれば、自動車を筆頭に日本企業の対米直接投資残高(23年)は7832億ドルと19年から世界一が続く。カナダ・ドイツ・英国・フランスを抜いていたのだ。これは、日本企業が、活躍できる舞台さえ整えば、国を問わずいかようにも投資できるという例である。数値化は難しいが、それ以外にも巨額の寄付金や教育、環境などへの社会貢献があると指摘されている。

マサチューセッツ工科大学は、「経済複雑性」という指標(ECI)ランキングを発表している。輸出する製品の多様性、偏在性、洗練の度合いから国・地域を順位づけするものだ。日本は、2000年から22年まで首位を守っている。

GDPは、周知のように国や地域のモノ・サービスを生産する力をみる指標である。一方、前記のECIは、複雑で難易度の高いモノを多くの分野で開発する力をみる指標とされている。日本以外では台湾が3位、韓国が4位、米国が10位、中国は上昇傾向にあるが、現在22位(いずれも22年)である。以上は、『日本経済新聞 電子版』(8月19日付)で、日経コメンテーター中山淳史氏が指摘した点だ。

ECI指標で、日本企業が2000年以来1位であることは、日本へ大きな希望を与えてくれる。日本のものづくり開発力が、いささかも衰えていないことは何を意味するのか。同時に、日本国内での疲弊した状態はなぜ起こったのか。まさに、二律背反ともいうべきことだ。

カリフォルニア大学のウリケ・シェーデ教授は、日本の隠れた実力を分析した近著『シン・日本の経営』で日本の製造業が「悲観バイアス」に陥り、実力相応の評価に気づいていない点、さらにECIに貢献していると見られる日本企業に共通する特徴を7つの「P」として指摘している。そのうちの1つがパラノイア(偏執症)だという。

企業に「パラノイア」健在

すぐに思い当たるのが、半導体企業ラピダスの旗揚げである。世界の半導体で「周回遅れ」と言われながら、世界最先端半導体「2ナノ」(ナノは10億分の1メートル)という、まったく未知の分野へ挑戦したことだ。これは、パラノイアの典型例であろう。

ラピダスは、創業者だけがパラノイアでなかった。日本の半導体現場で働いている40~50代の人たちが、「夢よもう一度」でラピダスへ毎月100人単位で転職したという。この人たちも、紛れもなくパラノイアであろう。

こうして、日本中に存在した半導体パラノイアが結集して、半導体生産で世界初の「前工程・後工程」統合という離れ業を現実のものにした。私は、この話を書くたびにある種の感動を禁じ得ないのである。日本の技術開発を巡る底力が、発揮された実例として記憶されるべきであるからだ。

ラピダスの立ち上げは、最初に自民党元幹事長の甘利明氏が米国IBMからの提携打診に応じて動いた。甘利氏は、ソニーに勤務していた経験があった。ソニーは半導体メーカーでもあり、甘利氏には半導体知識があったはずで、すぐに自民党重鎮の安倍晋三氏や麻生太郎氏らと図って自民党に半導体部会を立上げ応援態勢を固めた。こういう経緯があって、政府のラピダス創業への支援が始まったのである。

日本国内が、バブル崩壊後30年間も前へ進めなかったのは、過剰債務の処理で時間を費やしたからだ。この間に、消費者心理は完全に冷え切った。賃上げも名ばかりで、値上げしないことが最大の消費者アッピールとなった。こうして、「無風状態」へ陥った。ビジネスが動ける世界でなかったのだ。

日本企業が、海外とりわけ米国で投資したのは当然であろう。それが今、大きく変わり始めた。日本の金利復活は、競争の復活でもある。投資をすれば、それに見合った利益を生み出す環境になった。日本は、「死海」から「太平洋」へ戻ったと言えよう。

Next: 日本復活は近い?GDPは健康体復活を証明

1 2 3
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー