今回は、日本郵船、商船三井、川崎海運といった海運株を取り上げます。海運株はコロナ禍に株価が上がり、一時的なブームで終わるかと思われましたが、そこから一層株価が上昇する流れとなっています。配当利回りも、日本郵船5.21%、商船三井5.75%、川崎汽船4.2%といずれも高い水準です。 好調な数字だけでなく、海運業界の状況をしっかりと見極めて投資判断を行いたいと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
ずっと儲かる?
海運はどの会社もかなり近しいので、ここでは日本郵船を主軸に見ていきたいと思います。
株価が上がってきたのは業績が好調に推移してきたからです。
2019年は赤字でしたが、2020年には黒字化し、その後ぐんぐん上がって最終利益では何十倍にもなっています。
これだけ利益が出ると当然配当も株価も上がり、配当利回りも高いという状況となっています。
なぜこれほど業績が上がってきたかというと、船の運賃が大きく上昇したからというところが大きいです。
コロナ禍では多くの港で労働力が確保できず、船が動かせないという状況になりました。
一方で人々はネットショッピングで様々な物を買うということで、物の往来はむしろ活発になっていきました。
供給に対して需要が大きく上回ると価格が上がるということになり、船賃が上がりました。
これだけ運賃が上がるとなると船会社は濡れ手に粟の状態で大きく利益をあげました。
日本郵船に限らず、商船三井、川崎汽船、さらに世界中の船会社が同様の状況だったと思います。
もちろんその後落ち着いてきましたが、足元ではまた上昇しています。
コロナ禍の運賃の上昇はバブル的なものと冷静に見る見方が多かったのですが、直近でも上がっているので、運賃は高止まりするのではないかという見方が増え、株価も落ち着きかけたところからまた復活しています。
業績の見通しも、2024年3月期に落ちたものの、今期はまた増収増益予想となっています。
このことから、海運会社は高い利益水準を固めてきたように見えます。
海運業界はこれまでも収益を改善する動きが起きていました。
2010年代は“海運不況”と言われるほど厳しい状況でした。
日本郵船も度々赤字を出していて、利益が取れませんでした。
なぜそんな状況だったかというと、世界中にコンテナ船があり、過当競争に陥っていたからです。
日本にも日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社があり、どの会社も利益が出ていませんでした。
この状況を改善するために、日本の3社はコンテナ船事業を統合するという形を取りました。
それがONE(Ocean Network Express)です。
経営統合すると、まずは効率化ができます。
重複した航路を無くしたり、本社機能などを統合してコスト削減が図れます。
最も大きいところとしてはやはり価格競争を緩やかにしようということです。
競合が少なくなれば過度に価格を下げる必要がなくなります。
ONEは川崎汽船31%、商船三井31%、日本郵船38%という形で分け合って持つことになりました。
コロナ禍で業績を大きく押し上げていたのがこのONEの業績だったのです。
各社の持分が30%を超えているのでいわゆる持分法適用会社となります。
例えばONEが1,000億円の利益を出したとすると、川崎汽船310億円、商船三井310億円、日本郵船380億円と分配されます。
持分法適用会社なので、営業利益には入りませんが、経常利益に反映されることになります。
グラフの緑の線がONEの持分法利益を含む業績となりますが、特に2022年、2023年は利益の大部分がONEからのものとなっています。
業界再編が進んで競争が緩やかになったところにコロナ禍に入り、価格に関しては逆に強気に出られたということです。
<業界再編の効果>
もちろんそんな状況がいつまでも続くことはなく、世の中が落ち着いてくるとともに船賃も一時落ち着きましたが、足元でまた大きく上がってきました。
これは中東情勢の不安定化によるものです。
紅海やスエズ運河の航路が事実上閉ざされてしまい、船が稼働できなくなったり大きく迂回しなければならなくなりました。
そうなると需要が供給を上回ることになり、船会社は価格を上げられて利益を享受することになります。
業界再編が進み船会社の数自体が減り、中東情勢もいつ落ち着くか分からないとなると、このまま価格が高止まりするのではないかという期待が出てきます。
Next: このまま株価上昇は続く?長期投資家が持つべき視点