日本「以外」は順調に成長している
まず、東南アジア各国のデータをまとめておきます。

東南アジア各国の2022年の経済状況(世界銀行のデータより作成)
日本のGDP成長率はマイナスになってしまっていますが、東南アジアはいずれも成長をしており、非常に高くなっています。成長疲れで踊り場にきているタイが伸び悩み、新しい産業体制がなかなか構築できないフィリピンが遅れをとっていますが、1人あたりのGDPが高くなってきているマレーシアとインドネシアは、まだ高い成長率を示しています。
参考に日本のデータもつけておきました(都市化率は基準が異なるので比較できません)。1人あたりGDPは、シンガポールには大きく引き離され、天然ガスなどの資源が豊富にあるブルネイにも負けています(IMFの2023年のデータでは、1人あたりのGDPはブルネイよりも日本の方がわずかに上回りました)。それ以外の国は日本よりもまだまだ低いですが、マレーシアはすでに日本の3分の1を超えてきています。成長率を考えると、追いつかれることもじゅうぶんにありえます。
ここで、ちょっと面白いデータをお見せします。

世界各国の家庭の面積の増加率と家電の販売額の関係「2024年海外小家電市場研究報告」(iResearch)より引用
上図は世界各国の家庭の面積の増加率と家電の販売額の関係。左から右に向かって、(アジア)マレーシア、シンガポール。(中東)イスラエル、サウジアラビア。(南北アメリカ)米国、ブラジル。(欧州)英国、イタリアとなる。「2024年海外小家電市場研究報告」(iResearch)より引用。
これは各国の住宅の1戸あたりの面積の伸び率と、家電製品の販売額の伸び率を重ね合わせたものです。非常にきれいに連動していることがわかると思います。つまり、家が広くなると家電を買うという法則があるのです。
東南アジアの住宅事情は、貧困層ではまだまだ厳しいものがあるものの、全体としては土の床は減り続け、フローリングやタイルになり、1人あたりの面積も増えてきています。それに伴い、小家電(掃除機、美容機器、キッチン家電など)の売れ行きが伸びています。
この小家電というのは、価格も手頃であり、しかも質の高い生活を実感させてくれるため、経済成長期にはよく売れます。私たちだって、エスプレッソマシンやスロージューサーなどを買えば、ちょっと質の高い生活を送っている気分になれます。
しかも、面白いのは、このような小家電は、ドラマや映画というコンテンツが大きな宣伝効果を持っているということです。例えば、日本でも、米国ドラマ「フレンズ」の影響で、米国のキッチン家電老舗メーカー「KitchenAid」が注目をされたことがあります。フレンズの登場人物であるモニカはシェフであるため、自宅のキッチンにもプロユースのキッチン道具をそろえています。それがルックスがよく、しかも実用性が高いことから人気になりました。日本のキッチンも、昔の台所からオープンキッチンや対面式、アイランド式に変化をしていますが、おそらくはそういう嗜好も海外映画やドラマからきているのだと思います。
東南アジアでも同じです。日本のアニメやドラマが放映されることで日本の家電が人気となり、その後は韓国ドラマが放映されることで韓国家電が人気となり、そしていま、中国のショートムービーが流れることで中国家電が浸透をし始めています。
東南アジアの小家電市場は戦国時代に
今、東南アジアの小家電市場は戦国時代になっています。
以前から、欧米のメーカーが強く、そこに日中韓のメーカーが食い込み、さらには現地国のメーカーも頭角を表してきて、世界で最も競争が激しい市場になっています。
欧米や日本の経済成長は限界に達していて、中国もその限界が見え始めてきています。つまり、今後も成長をしたいという企業は東南アジアとインドに進出をしていくしかありません。
そこで、今回は、競争が激しくなっている東南アジアの家電市場についてご紹介します。
東南アジア市場というと、日本の進出の歴史が長く、日本企業によるインフラが整っているタイとベトナムが、思い浮かべる方が多いかと思いますが、それは中国企業にとっても同じで、中国企業との競争が激化をしていくことになります。一方、インドネシアとマレーシアの2国が、中国企業の進出が遅れている分、中国企業との競争が緩やかで、日本にとっては注目すべき市場になっているということをご紹介します。
家電製品は、大家電と小家電に分類されます。大家電は生活に必須で取り付け工事が必要な家電で、エアコン、冷蔵庫、洗濯機の3つが主なものです。小家電はテーブルの上に置ける程度の家電で、キッチン家電、生活衛生家電(掃除機、空気清浄機など)、個人衛生家電(アイロン、ドライヤー、電動歯ブラシなど)の3つになります。この他にもテレビなどの情報家電もあります。
普及は大家電→情報家電→小家電の順番で進むのが一般的です。まずはエアコン、洗濯機などを買い、基本的な生活を成り立たせ、次にテレビを買い情報のある生活を成り立たせ、最後に小家電を買い豊な生活を成り立たせます。
しかし、東南アジア全体の家電の普及状況は少し風変わりになっています。
大家電、小家電が同時に伸び、一方でテレビは減少をしているという状況なのです。一般的な経済成長では、まず大家電の需要が生まれ、それから情報家電、小家電というように推移をしていきますが、東南アジアの場合は急速に経済成長をしているため、大家電の需要と小家電の需要が同時に起きている状態です。
その中で、テレビが減少しているというのは面白い現象です。おそらくはスマートフォンの普及の影響です。タイ、シンガポール、フィリピンなどでの携帯電話普及率は日本と変わりありません。