それぞれの会社の経営統合の目的は何?
日産としては「鴻海に買収されそうなところから救って欲しい」これが目的のように見えます。その状況をもたらしたのは、経営状況の悪化による株価下落が原因といえます。一方で、ホンダにも経営統合を推し進める動機がないわけではありません。それぞれの会社の現状を解説します。
<日産の現状>
現在の日産は非常に厳しい状態にあります。
地域別の販売台数を見ると、主力市場であった中国が2018年から半減、北米地域や欧州でも30%以上減少しています。

出典:日産自動車 決算説明資料
中国地域は短期的には景気不況の影響はありますが、競争激化の影響も大きいでしょう。
比亜迪(BYD)を筆頭に新興のEVメーカーが高い技術力と安い価格を実現し、日産だけでなく日本勢は中国で苦戦しています。
同時に主力市場の北米でも苦戦を強いられています。要するに、売れる車がないのです。日産はゴーン氏の改革以後、コストカットを進めてきました。その結果、販売する車は消費者にとって魅力に欠けるものとなってきたのです。そんな中で、少しでも販売台数を稼ぐために、実質的な値下げが横行し、その結果としてブランド力が大幅に低下していました。
ゴーン氏の失脚以後なんとか立て直そうとしたものの、これまでの後れを簡単に取り戻せるものではなく、25年3月期の第2四半期時点の営業利益は前年同期比90%減と形勢の悪さが浮き彫りになりました。(売上は前年同期比-1.3%)

出典:日産自動車 決算説明資料
こうなると、まずは収益性の改善に努めなければなりません。具体的な打開策としては、生産能力の20%削減と人員9,000人のリストラ計画を策定しました。(従業員数は約13万人)つまりコストカットです。
しかし、それだけでは十分ではありません。売上成長というところでは、現状他社に対する優位性があるような、人気の売れる車が少ない、という問題がありますし、具体的な戦略は示されていません。
先行きの不透明感が、株価を大きく引き下げ、鴻海の襲来を招いてしまったのです。
<ホンダの狙い>
では、ホンダは日産と経営統合する上でメリットはあるのでしょうか?
ホンダの戦略は「EVへの全振り」です。ホンダは2040年までに新車販売の全てを電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にする目標を掲げています。

出典:HondaStories
しかしホンダの目標と現状には大きな乖離があります。23年度のグループ販売台数が410万台であるのに対し、EV販売台数は2万台前後です。
さらに競合他社と比較しても、EV販売においては存在感が薄いのが実態です。

出典:NHK
このEV目標の実現と巻き返しが、経営統合の1つの狙いと言えます。
この電動化や、運転支援や自動運転などの知能化には巨額の投資が必要です。経営統合によって不足しているソフトウェア人材を両社で活用し、別々に開発している部品やソフトを共通化できればそれぞれの投資負担が減少する期待があります。さらに資材調達におけるスケールメリットもあるでしょう。
さらに販売台数が増えることで、電動化・知能化時代における運転データの集約というメリットもありそうです。
確かに日産は比較的早くからEV化を進め、その技術力などは評価できます。ただし、先に述べた通り日産の経営状況はEV市場のレッドオーシャン化と需要縮小によって悪化しています。
そもそも、この市場の中でホンダのEV全振り戦略をどう評価するのかも考える必要があるでしょう。