この事故では、衝突をしてから救急車が到着するまでの40分間、どのような状況だったのかがわかっていません。最も大きいのが、車両のオーナーが同乗をしていなかったため、乗員に連絡を取ることができず、どのような状態かがわからないからです。
シャオミは、EDRを回収しているので、詳細なデータがわかっているはずですが、深刻な事故であるためにすべてを捜査機関に提出したことから、事故の詳細データを公開していません(簡略化された経緯については公開をしました)。
このことから、さまざまな不安が起きています。ひとつは、AEB(衝突衝撃軽減ブレーキ)がなぜ効かなかったのかという問題です。自動運転中はもちろん、手動運転中でも、障害物を検知すると、自動でブレーキがかかる仕組みは多くの自動車に搭載されています。衝突速度が時速97kmということはAEBが働いていないことを示しています。
しかし、AEBには、作動条件があり、それが各社、各車種で異なっているために混乱を生んでいます。例えば、多くのエントリーモデルの車では、AEBの動作条件が例えば「時速20kmから時速80kmまで」などのような条件がつけられていることが少なくありません。
低速徐行時にAEBを動作させる仕様にすると、ちょっとした障害物にも反応してブレーキがかかってしまうことがあります。すると、後続車が追突をしてしまうリスクが生まれます。低速では、運転手が障害物を把握して適切な運転操作をする可能性が高く、万が一、衝突をしても、車体と対象物が破損する程度で大事故にはなりません。リスクとメリットを秤にかけて、低速ではAEBを動作させないというのもひとつの考え方です。
高速時にAEBが作動するのもリスクを伴います。まず、LiDARなどのセンサーが遠方まで把握しなければならないので、製造コストがあがります。そのため、エントリーモデルの車では、簡易的な視覚センサーを使い、高速時のAEBには対応しないというのが一般的です。
また、高速時にブレーキがかかると、車体は非常に不安定な状態に置かれ、ハンドル操作を誤るとスピンしかねません。そのため、高速でのAEBは、ブレーキだけでなく、ハンドル操作もシステムが担当し、安全に速度を落とさせる必要があります。どうしても高級車に限る機能になってしまいます。
SU7のAEBの動作条件は、時速8kmから135kmとかなり広い範囲をカバーしています。ところが、検出対象が車両、二輪車、歩行者だけなのです。障害物や動物には対応していませんでした。
シャオミがどのような方針なのかはこれから明らかになります。現在はまだベータ版であり、将来のアップデートで対応するつもりなのか、あるいは、障害物や動物には対応しない考え方なのかは明らかになっていません。
各社、補助機能にさまざまな動作条件があるのは仕方のないことですが、このシャオミのAEBの現状の仕様について、購入者に周知されていたのかという疑問は残ります。購入時に注意事項が表示され「読んだ」ボタンを押さないと、購入ができない仕組みにはなっていますが、ちゃんと読むという人はごく少数だと思われます。<中略>
このような事故例を見て、「やっぱり自動運転は怖い」と思う方もいらっしゃるかと思います。しかし、日本では交通事故で毎年2,600人の方が亡くなり、36万人の方が負傷をしています。
正しい態度は、「だから自動運転はやめるべきだ」ではなく、このような問題をひとつひとつ解決していくことです。日本でも1970年には交通事故の死者数が1万6,765人にものぼりました。50年かけてコツコツと5分の1以下にまで減らしてきたのです。
今後、日本でも自動運転が普及をし、同様の大事故が起きることもあるかと思います。その時、必ず、歩みを後退させる意見が強くなります。そうならないように、今、中国の自動運転でどのような事故が起こり、彼らがどう解決して乗り越えていくのかをよく見ておく必要があります。中国は、非常に優れた教材を提供してくれている最中です。
シャオミでは「スマート運転教室」という教材で対策も…
衝突後にドアがロックされ、乗員が脱出できなかったケースも
バッテリーからの発火も不安視されている
自動運転の普及に大きな節目
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知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード
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』(2025年4月14日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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