事故を起こす直前になって人間が運転に介入しても、人間にも対処できない
この事故の経過を見て、このメルマガの読者であれば、ある事故を思い出したかもしれません。「vol.226:自動運転はどこまで進んでいるのか。公道テストで99.56%をマークする実力」でご紹介した広東省の高速事故です。
事故を起こした女性運転手は、ファーウェイの自動運転「ADS」を搭載した問界M7で自動運転をしていました。左側車線(中国は右側通行なので追越車線になる)を走行し、右側車線の低速トラックを追い抜きにかかりました。しかし、その時に、トラックが後方確認をせずに車線変更し、女性の車の前に出てきたのです。
女性運転手は反射的にブレーキペダルを踏んでしまいました。これで高速NOAは解除され、手動運転に切り替わりました。そして衝突をしてしまったという事故です。
シャオミの事故もM7の事故も、NOAが人間に対し運転介入を求めていないということに注意をしてください。そのため、運転手は何もしなかったら、NOAがうまく操作をして事故を回避したか、あるいは事故を起こしたとしても人間の運転よりも被害を軽減させた可能性はじゅうぶんにあります。しかし、それは証明ができないことです。
それより何より、目の前のトラックと衝突しそうになっている、誘導路のコーンに接触しそうになっているという状況で、人間がとっさにブレーキペダルを踏んだり、ハンドル操作をしたりするのは自然なことというか、反射的なもので、避けることはできません。
しかし、どちらの事故でも、事故を起こす直前になって人間が運転に介入しても、人間にも対処ができません。
速度標識を機械が認識できなかった?
さらに問題があります。この工事区間の2km前、1.5km前、1.2km前、0.3km前には、60km速度制限の臨時標識を出し「前方工事中」の標識も出されていました。さらに、途中の文字表示ができる電光掲示板では「前方工事中。規制速度60km」の表示も行っていました(中国の高速道路の通常の制限速度は時速120kmです)。工事関係者は規則どおりの安全対策をとっていたのです。
シャオミの高速NOAはこのような臨時標識を認識できていなかった可能性があります。なぜなら、問題箇所には時速110km以上の速度で接近し、衝突時の速度も時速97kmという高いものだったからです。
「前方工事中」のような文字表示が理解できないのは仕方がないにしても、60km速度制限の標識が認識できていなかったことは問題です。臨時とは言え、通常の速度制限標識と同じ図形です。なぜ認識できなかったのか、解明する必要があります。
あるいは、地図データに制限速度などの情報は入っているために、実際の標識を認識しなくても交通ルールに沿った走行ができるという考え方なのかもしれません。だとしたら、工事規制のような通常ではない状況がある場合には、その手前でNOAを解除し、人間に運転介入を求めなければなりません。
あるいは、臨時の状況であっても、地図データに情報を流して、NOAが臨時の規制速度に従った走行ができるようにする必要があります。
今回の事故は、「前方に工事による車線規制がある」という情報だけが、地図に伝わって、具体的な60km速度規制だとか、誘導コーンがあるという情報は伝わってなく、NOAは通常の高速道路の走行=制限速度120kmをしようとして、直前になって誘導コーンの存在に気がつき警告を出したということのようです。このあたり、情報の把握とその対処に問題があることは否定できません。
各交通運輸部門は、この事故を受けてすぐに対処しました。車線規制を伴う工事を行う時は、「制限速度60km」「前方工事」の他に「自動運転オフ」の掲示を出すようにしています。根本的な解決にはなりませんが、当面の対処としては効果がありそうです。
イレギュラーな道路状況を理解できるのか
もうひとつ、大きな問題は、高速NOAはイレギュラーな誘導路を理解できるのかという問題です。なぜなら、誘導路は反対車線に設定されていて、これは通常の状態であれば、逆走となり、交通法規違反になります。
この問題は、さまざまな自動車メディアがさっそく実験をして検証をしています。あるメディアでは、テストコースにこの事故と同じようにコーンを設置し、問界、享界、小鵬、テスラの4台の車で自動運転の挙動を検証しています。すると、4台とも反対車線に設定された誘導路に入るのを拒み、コーンの手前で停止をしてしまいました。シャオミの高速NOAがこのような状況でどのような挙動を取るのか、これも検証が必要です。
いずれにしても、自動運転では通常の状況では素晴らしい性能を示すものの、特殊な状況ではその挙動が安定しないという問題を抱えているようです。各交通運輸部門が対処したように、車線規制などのイレギュラーな状況がある場合は、自動運転をオフにして手動運転で通過する必要があります。自動運転システムは、特殊な状況を把握した時は、早めに強い警告を出して、人間に運転介入を求めるようにする必要があります。
Next: 問題が山積。日本でも必ず同様の議論が巻き起こる…