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サムスン「敗北」で韓国経済も斜陽へ。なぜ新しい産業は育たないのか?=勝又壽良

韓国経済の停滞感が強まるなか、サムスンをはじめとする半導体産業の衰退が深刻さを増している。かつて世界をリードしたメモリ半導体技術も、中国勢に追い越され、もはや優位を保てない状況だ。技術開発力の鈍化、基礎研究の脆弱性、産業集積度の薄さ――。複合的な問題が絡み合い、韓国は「先進国」の座から滑り落ちつつある。一方で、日本のラピダスが急成長を遂げるなど、東アジアの半導体勢力図も大きく揺れ動いている。韓国経済は、どこへ向かうのか。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)

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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

サムスンとともに沈む韓国経済

韓国経済は、サムスンの「稼ぐ力」の衰えとともに輝きを失っている。

最大の理由は、技術開発力の停滞である。これまで、韓国はメモリ半導体技術で中国半導体を大きく引き離してきた。現在は、技術格差で逆転されたと韓国専門家が評価するほど、停滞感が漂っている。

なぜこういう事態に陥ったのか。それは、基礎研究面が脆弱であるからだ。目先の応用技術ばかりに目を向けている結果である。これが、韓国全体に通じる弱点である。

サムスン半導体の歴史は、日本の半導体技術を正式契約でなく、技術者の高額アルバイトで入手したという異常性が出発点である。正式なノウハウという高額な技術移転料を払わずに、「見よう見まね」という形のメモリ半導体技術を入手した。この安易さが、サムスン半導体経営を根幹から「腐食させる」結果を招いた。不幸の始まりは、ここにある。

日本半導体は、メモリ半導体のほかに高度の非メモリ半導体技術も確立したが、サムスンはメモリ半導体技術入手で満足し、自らスマホ生産にまで乗り出して高収益を上げ、「我が世の春」を謳歌した。だが、非メモリ半導体が主流になるとともに、サムスンの技術的蓄積不足が露呈した。製品歩留まり率が、30%台という商業生産からほど遠い実態に落ち込んだままだ。同業の台湾TSMCが、70%台の歩留まり率であることからみて劣性は明らか。

事実上、先端半導体からは「脱落」状態にある。

一方、日本の半導体は復活へ

日本のラピダスは、「破竹の勢い」である。

政府が、ラピダスへ出資するほかに、ラピダスへ債務保証まで付けるという厚い支援体制が国会で決定した。これは、ラピダスの「2ナノ」試作過程が順調であることの反映だ。

政府は、ラピダスを一挙にTSMC並みにまで急成長させる、技術的裏付けができたと確認した結果であろう。このニュースは、一般紙だけでなく、スポーツ紙までが取り上げるほど注目度の高さを示している。

実はラピダス設立の裏に、サムスンが米IBMから「5ナノ」で製造委託を受けたものの、歩留まり率で低迷したことが大きな理由になった。IBMは、サムスン技術に見切りを付けて、日本へより高度の「2ナノ」製造委託話を持ち込んだのである。これが、ラピダスの始まりである。

サムスンが、「5ナノ」で成功していれば、日本へ「2ナノ」製造話が持ち込まれることはなかった。サムスンは、期せずして日本へ半導体の「大政奉還」をする役割を果した。歴史の舞台は、こうして一回りして元に戻ったのだ。

色あせた韓国先進国論

韓国で経済停滞感が強くなっている。昨年4~6月期以降から、0%台とマイナス成長を繰返しているからだ。今年1~3月期の実質GDPは、前期比マイナス0.2%に落込んだ。すでに昨年4~6月期以降からマイナス0.2%、0.1%、0.1%、マイナス0.2%と極めて低調な数値が並んでいる。

経済成長率が、4期連続で0.1%すら超えられなかったのは、アジア通貨危機(1997~98年)やリーマン・ショック(2008年)当時もなかったことだ。当時の成長率は一時的に大きく下落したが、その後は短期間で一気に回復した。これに対して今の状況は、慢性的な「低成長時代」が現実化してことを示している。韓国経済のピークアウトを内外に示したことだ。

韓国銀行(中央銀行)総裁が、サジを投げるほどの事態である。新しい産業が起こらないことが主因と断定している。半導体と自動車のほかに、新しい産業が育たないのだ。

Next: 新しい産業が生まれない韓国…ここからどこに向かう?

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