サムスン産業集積不利
半導体を例に挙げれば、製造機械、素材などがそろって初めて製品が完成する。日本では、半導体装置のほかに「川上」から「川下」まですべて揃っているのだ。韓国では、サムスンが「野中の一本杉」の状態で孤立しており、産業集積度が極めて希薄である。中国半導体技術が、急速な発展を可能にしたのは、産業集積度の厚みが増してきた結果であろう。だが、その中国も日本に比べれば手薄である。日本には敵わないのだ。
日本半導体は、既述の通り関連産業がすべて揃っている。産業集積度の厚みは、世界一と言える。この背景には、江戸時代の封建体制による藩政で各藩が経済運営を行い、産業発展を目指してきた事実がある。それが、明治維新によって近代工業の勃興と結びつき、関連産業を発展させる結果になった。
韓国の産業集積度はどうか。これは、朝鮮李朝の政治と深く関わっている。中央集権体制の結果、産業はソウル一帯に限定されていた。ソウルから一歩外へ出れば、それは「未開地域」でもあった。現在、韓国の観光開発はソウル首都圏に限られているという批評を聞く。これは、李朝時代の流れが今も息づいている名残で、地方開発が遅れたことを示している。こうして、韓国では地方の産業が興りにくいという、歴史に由来する特殊要因が働いているのだ。
韓国の半導体は、産業集積という視点で眺めるとどうなるか。韓国は、半導体製造機械も半導体素材もすべて海外(特に日本)へ依存している。この状態から言って、韓国半導体の将来性は、極めて暗いと言うほかない。
止められない頭脳流出
韓国は、これだけでない「制度的硬直性」を抱えている。一度決まった制度の改革が事実上、不可能という硬直さを抱えている。これは、既得権益集団が政治的に巨大化し、改革を阻む抵抗勢力になることだ。半導体などの基礎研究充実が叫ばれながら、現実はこれを阻み中国へ人材の「塩を送る」という事態を招いている。これは、その一例であろう。
韓国政府が「国家碩学」に指定した1・2号が、定年退職後の研究基盤がないことから、中国の大学へ席を移す「頭脳流出」を引き起こしている。お一人は、半導体、バッテリー、量子など世界が競争する先端技術の基礎研究分野で世界的権威と認められた李永熙(イ・ヨンヒ)成均館(ソンギュングァン)大学教授である。もうお一人は、理論物理学者の李淇明(イ・ギミョン)高等科学院副院長である。
韓国教育部と韓国研究財団は、李永熙教授を2005年に、李淇明教授が2006年に、それぞれ「国家碩学」に選んだほど輝かしい研究実績を積み重ねてきた韓国の頭脳である。それだけに、民間が生涯にわたり研究の場を提供することにより,後進の育成・指導において大きな貢献が期待されたはずだ。研究者とは、その生涯を研究に捧げるものである。研究には定年がないのだ。こういう「特性」を忘れ、碩学を見捨てたのも同然の結果となった。サムスンが、この両「碩学」を受入れる度量をみせるべきであった。
一方、ユン前大統領が昨年12月に「戒厳令」を発した背景にも、既得権益に凝り固まった抵抗勢力の存在がある。これが、政策実施を阻んだことは明らかだ。ユン氏は、これに対して「感情的爆発」を起こしたとみられる。その結果、自らを弾劾へ追い込む異例の事態を招いた。ユン氏は、年功序列制廃止に力点を置いて改革に努力した。年功序列賃金が、企業の定年制延長を阻み、国民の老後生活を経済的不安に落とし入れると判断したからだ。
韓国では、期待寿命が過去20年間(2014~24年)で約6.5歳伸びたにもかかわらず、企業の定年は60歳のままである。年功序列賃金のために定年を延長すれば、企業の賃金負担が増えることから、定年を延長できないのだ。これが、韓国の高齢者の貯蓄を増やすので、個人消費を抑えて経済成長にマイナスになるという不思議なことが起っている。