日本市場の深刻な問題:販売本数の大幅な減少と競争激化
売上規模が最も大きい日本市場の状況を詳しく見てみると、深刻な課題が浮き彫りになります。

出典:ヤクルト 決算説明資料
<乳製品全体の販売本数が7%減>
今期の日本における乳製品全体(ヤクルト製品全体)の販売本数は、前年と比較して7%も減少しています。これは非常に大きな落ち込みです。
さらに、販売本数はコロナ前の2020年3月期よりも減ってしまっています(948万本/日から916万本/日へ減少)。
<販売本数減少の要因>
主な要因は以下の通りです。
- 外部環境の悪化:物価高騰による消費意欲の低下。
- 競合の存在:他社商品の台頭により、競争優位性が失われつつある可能性が示唆されます。
- ヤクルトレディ活動の鈍化:記録的な猛暑の影響で、ヤクルトレディの活動が鈍化し、販売本数が伸び悩みました。ヤクルトの付加価値は、ヤクルトレディが地道に商品を飲み続ける意味や効果を伝え、消費者との信頼関係を築くことで成り立ってきました。猛暑が今後も続くことを考えると、この活動鈍化は恒常的なマイナス要因になりかねず、大きな懸念材料です。
企業側は販売促進活動や広告展開で回復を目指すとしていますが、広告宣伝はコストがかかり、また乳酸菌飲料のマス広告の効果が出にくい状況も考慮すると、ヤクルトレディを中心としたビジネスモデルをどうにかしなくてはいけない状況です。
<主力製品「ヤクルト1000」も減少>
爆発的ヒットをもたらした「ヤクルト1000」の販売本数も2.5%減少しています。
また、ヤクルトが注力していた糖質オフタイプは、現代の健康志向を捉えたマーケティング戦略だったにもかかわらず、大幅な顧客増加には結びついていないという皮肉な結果となっています。
海外市場の逆風:成長を牽引する米州でも減速の兆し
<米州地域(米国・メキシコ・ブラジル)の懸念>
国内の減少を支えてきた米州地域も、良好とは言えない状況が見られます。
特に米国では、関税政策の影響などによる購買意欲の低下により、買い控えが見られました。米国では高単価な製品が業績を押し上げていた背景があるため、関税政策の影響を間接的に受けることは痛手となる可能性があります。
累計の売上本数ではメキシコを除いて100%を割っていませんが、決算短信の文言からは、第2四半期単体では前年を割る状況が発生していた可能性がうかがえます。
<アジア・オセアニア地域の状況>
アジア・オセアニア地域では、ベトナムや中国の好調、インドネシアの実績回復への努力など、比較的ポジティブな文言が並びました。
しかし、円ベースの連結売上高は前中間期比で3.3%減少しています(現地通貨ベースでは伸びているものの、円ベースでは減少)。
構造的な課題:ヤクルトレディビジネスモデルの持続可能性
今回の決算を通じて、ヤクルトの事業が構造的な課題に直面していることが浮き彫りになりました。
<国内ヤクルトレディの減少傾向>
国内では、ヤクルトレディの数がピーク時から半分程度に減少しています。2024年4月1日時点での人数は31,341人で、前年の同時期(32,438人)から減少しています。
これは、ヤクルトレディというビジネスモデルが現代において徐々に不要になりつつある可能性、あるいは競争激化の結果かもしれません。
<ヤクルト製品の付加価値の埋没>
乳酸菌飲料のライバル商品が増えているだけでなく、消費者が抱える問題(例:睡眠の質向上)に対する解決策の選択肢自体が多様化しています。
例えば、睡眠の質を向上させるために「ヤクルト1000」を選ぶか、別の「寝具」に投資するかなど、多くの選択肢が存在する中で、ヤクルト製品の付加価値が消費者の間で埋もれかけているという印象もあります。
<海外でのヤクルトレディの課題と例外>
アジア地域でもヤクルトレディは活動していますが、中国では販売会社の整理統合が進み、ヤクルトレディの数が減っています。現地乳酸菌飲料メーカーの台頭もあり、ヤクルトレディの減少や販売会社の統合は、今後の成長にとって明るい要素とは言い難い状況です。
唯一、米国はヤクルトレディがなく、マス広告やスーパーでのデモンストレーションで業績を伸ばしてきましたが、ここにも足元で逆風が吹いており、今回の決算からはヤクルトの外部環境の良さや競争優位性の高さが見えづらくなりました。
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