今期の決算に含まれる利益「2,000億円」の一時的要因
今期の爆発的な増益(税引き前利益5,100億円)には、約2,000億円もの一時的な利益が含まれていることを忘れてはなりません。
1つ目は、住信SBIネット銀行の株式売却に伴う利益です。
SBIは住信SBIネット銀行の上場後、その株式をNTTドコモへ売却しました。
この売却益が1,416億円という巨額な数字で今期の決算に乗っています。
SBI新生銀行と役割が重複することから、より自由度の高い新生銀行を主軸に据えるための戦略的撤退と言えるでしょう。
2つ目は、教保生命を連結に加えたことによる「負ののれん」発生益、674億円です。
これは会計上の利益であり、現金の流入を伴う実質的な成長とは異なります。
これら合計約2,000億円を除けば、増益率は10%程度にとどまります。
決算説明会で北尾社長がROE28%を誇らしげに語り、JPモルガンやゴールドマン・サックスと比較して自慢していましたが、一時的な要因を並べて比較するのは、投資家から見れば少し「ずるい」と感じる部分かもしれません。
割安放置か、それとも妥当な評価か
現在の株価下落は、昨年の段階で好決算が期待され、期待値が上がりすぎていたことへの反動と考えられます。
また、今期予想を非開示としていることも、先行きの不透明感を招いています。
しかし、実力値ベースでの割安感は依然として高いと言えます。
一時的な利益を除いた実力値のEPS(1株当たり利益)を約300円と推計すると、現在の株価に対するPER(株価収益率)は約9倍となります。
PBR0.97倍、PER9倍という数字は、日本市場全体と比較しても十分に割安な水準に放置されていると言ってよいでしょう。
AI・ブロックチェーン・ネオメディアの三位一体
北尾社長が掲げる「戦略価値」の拡大に向けた目標は、非常に野心的です。
具体的には3つの戦略目標を掲げています。
- AIドリブン文化の断行
- 次世代金融サービスへの組織改革
- デジタル・ネオメディア生態系の構築
モルガン・チェースなどの事例を挙げ、グループ全体でAIを徹底活用する体制を構築する。
ブロックチェーンやオンチェーン技術を駆使し、世界に先駆けたサービスを提供する。
既存の金融生態系にデジタル・メディアを融合させ、顧客基盤を飛躍的に拡大させる。
特に暗号資産分野では、リップル社に約9%出資しており、同社が保有する膨大な暗号資産を考慮すると、間接的に約7,000億円分の価値を有しているという見方もあります。
ただし、これらは株式市場からは不透明なリスクとして敬遠される要因にもなっています。
コングロマリット・ディスカウントの罠
同社の最大のリスクは、その事業構造の複雑さにあります。
連結子会社数はこの1年で50社近く増え、今や600社を超えています。
トップダウンでの迅速な意思決定ができる反面、これほどまでに広がりすぎた事業を、誰がどのようにまとめていくのかという疑問が拭えません。
経営の一般論として、事業が広がりすぎると投資効率が悪化し、業績を安定して伸ばすことが難しくなる「コングロマリット・ディスカウント」が働きます。
買収は常に成功するわけではなく、負の歪みが溜まっている可能性も否定できません。
北尾社長がスーパーマンであることは疑いようがありませんが、全ての事業を適切に育てていく能力や時間が果たしてあるのか、投資家は慎重に見極める必要があります。