「地政学リスクと海運株」という現在非常に注目度の高いテーマを深掘りします。現在、ニュースでも報じられている通り、イランに対するイスラエルおよび米国の軍事衝突を端緒として、中東情勢が極めて緊迫化しています。この事態を受け、イラン側は世界的なエネルギーの要衝であるホルムズ海峡の封鎖を宣言し、本稿執筆時点で「事実上の封鎖状態」に陥っています。こうした有事の際、株式市場では「海上運賃が上昇し、海運企業の業績に多大な恩恵をもたらすのではないか」という思惑が強く働きます。しかし、その恩恵が実際にどれほどの規模なのか、またどの程度の時間軸で発生するのかを正確に測ることは容易ではありません。海運業界の構造や大手3社のビジネスモデルを徹底調査し、現在の株価水準が妥当なのか、プロの視点で分析していきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』元村浩之)
プロフィール:元村 浩之(もとむら ひろゆき)
つばめ投資顧問アナリスト。1982年、長崎県生まれ。県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。2022年につばめ投資顧問に入社。長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。
ホルムズ海峡とは何か
投資家としてまず理解すべきは、問題となっているホルムズ海峡の地理的重要性と、対立の歴史的背景です。
ホルムズ海峡は、アラブ首長国連邦(UAE)とイランの間に位置し、海が非常に狭まっている場所にあります。
なぜここまでの軍事攻撃に発展したのかと言えば、根底にはイランと西側諸国(特に米国やイスラエル)との長年にわたる深刻な対立構造が存在します。
これまでもイランの核開発を巡って米国が厳しい制裁を課すなどの経緯がありましたが、今回の衝突を受け、イラン側は「自分たちが攻撃されるのであれば、世界のエネルギーの通り道であるここを通らせない」という強硬な姿勢、すなわち海峡封鎖に踏み切ったのです。
ホルムズ海峡封鎖がもたらすエネルギー供給の断絶
この海域が封鎖されることによる影響は、想像を絶する規模となります。
2024年ベースの統計によれば、世界全体の原油消費量の約20%に相当する量がこのホルムズ海峡を通過しています。

主要な産油国であるサウジアラビア、イラク、イラン、クウェートなどのエネルギーがこの「喉元」を通って世界へ供給されているのです。
特に日本への影響は甚大です。
日本の原油輸入の約9割は中東に依存しており、サウジアラビア、UAE、クウェート、カタールといった国々からの供給が止まることは、日本のエネルギー安保にとって死活問題となります。
さらに、LNG(液化天然ガス)についても、カタールが世界全体の供給量の約2割を占めています。
LNGは原油とは異なり、超低温での保存が必要で長期間の貯蔵が難しいため、供給がストップした場合の影響は原油よりも早期に表面化する可能性があります。
なぜ「有事」で海運運賃は急騰するのか
では、なぜ出口が塞がれると「海上運賃」が跳ね上がるのでしょうか。
理由は極めてシンプルです。
世界中の船が”より遠くへ、より高い燃料で”走らざるを得なくなるからです。
通常、中東から輸入している国々は、ホルムズ海峡が使えなくなれば西アフリカや北米、中南米など他の地域から代替の輸入を行わなければなりません。
すると当然、輸送距離が伸び、航海日数も大幅に増加します。
船が港になかなか戻ってこなくなるため、全世界で「船の奪い合い」が発生し、供給不足に陥ります。
さらに、中東産原油の流通停止によって原油価格自体が上昇するため、船を動かす燃料代も高騰します。
この「船不足」と「燃料高」の相乗効果こそが、海上運賃を急騰させるメカニズムの正体です。
日本海運大手3社(日本郵船・商船三井・川崎汽船)の利益構造
海上運賃が高騰することによって、原油タンカーやLNG船を多数保有する日本の海運大手が大儲けするのではないかという期待があがっていますが、実際はどうなのでしょうか。