■中長期の成長戦略
2. 第三次中期経営計画と重要戦略
一正蒲鉾<2904>の第三次中期経営計画は、2046年6月期のありたい姿を示す「ICHIMASA30ビジョン」の「2nd Stage 2026-2035」の前半5年間に位置付けられ、「深化の5年」をテーマとしている。2027年6月期から2029年6月期までのPhase1を「成長基盤創りの3年」、2030年6月期から2031年6月期までのPhase2を「成長軌道への2年」とし、最初の3年間で既存事業の構造改革を通じて収益基盤と営業キャッシュ・フロー創出力を強化し、生み出した原資を成長投資へ振り向けることで、その後の成長軌道への移行を目指す。基本方針には、「既存事業と海外事業・新規事業・インオーガニック成長」を柱とする成長戦略、「収益構造改革、営業キャッシュ・フロー創出」を軸とする構造改革、ホールディングス体制への移行によるグループ経営の高度化と企業価値の最大化を目指す経営基盤強化の3つを掲げている。
「2nd Stage 2026-2035」では、「魚肉たんぱくを、くらしの“あたりまえ”に。」をテーマに掲げ、水産練製品を従来のカテゴリーにとどまらない「魚肉たんぱく食品」として再定義する。魚肉たんぱくは、良質なタンパク源であることに加え、畜肉と比べて水・土地の使用量や温室効果ガス排出量などの環境負荷が低いことから、健康性・環境性を兼ね備えた「未来の食を支えるタンパク源」と位置付ける。主菜から間食までの新しい食シーン、健康と利便性、多様なライフスタイル、教育・医療・介護などのライフステージ、環境・サステナビリティなどを重点領域とし、練製品に対する従来のイメージからの脱却を図る。事業ポートフォリオについては、水産練製品・惣菜事業ときのこ事業を「既存事業」、海外事業と魚肉たんぱくを中心とした総合食品事業を「成長領域」、フードテックを「新領域」とする三層構造に再構築する。既存事業ではコスト構造改革によって収益基盤を強靭化し、成長領域では海外事業や総合食品事業の展開を加速するほか、新領域では新たなタンパク源の創造・提供に向けた次世代型食料エコシステムの構築を進める。
2031年6月期の数値目標は、売上高450億円、営業利益20億円、営業利益率5%としており、2026年6月期実績の売上高355.4億円、営業利益6.1億円から収益力を大きく引き上げる計画である。セグメント別では、水産練製品・惣菜事業の営業利益を7.5億円から14億円、きのこ事業を2.4億円の営業損失から4億円の営業利益、その他事業を1.0億円から2億円へ引き上げることを想定している。また、2027年6月期から2031年6月期までの5期累計で152億円の営業キャッシュ・フローを創出し、ROE8.0%、ROIC6.0%を目標とする。キャピタルアロケーションでは、5期で創出する営業キャッシュ・フロー152億円に対し、成長投資135億円、株主還元17億円を計画する。成長投資の内訳は、維持増強投資47億円、合理化などの効率化投資23億円、海外・新規事業・インオーガニック領域への戦略投資65億円としており、従来以上に成長分野への資本配分を強める。株主還元については安定配当を基本とし、5期平均で配当性向30%以上を維持する方針である。財務健全性では自己資本比率50%以上を目標とし、収益改善やCCC(キャッシュ回収サイクル)の改善によって安定的な営業キャッシュ・フローを創出しながら、成長投資余力を確保する方針だ。
(1) 水産練製品・惣菜事業
水産練製品・惣菜事業では、コア領域の収益基盤を強靭化するとともに、魚肉たんぱくを軸とした新たな成長領域への展開を進める。カニかまなど競争力の高いコア領域に経営資源を優先投下し、魚肉たんぱくの健康性や利便性などの価値訴求を強めることでシェア拡大を目指す。また、全国の生産・物流拠点の最適化を進め、製造原価率の低減やBCPの強化につなげる。商品面では、簡便・即食商品に加え、冷凍・常温商品の拡充によって多様なライフスタイルへの対応を強化するほか、「魚肉たんぱく+カルシウム・ビタミンD」「魚肉たんぱく+スープ」など「魚肉たんぱく+ONE」の考え方に基づく付加価値商品の展開や、業務用市場など新たな販売領域の開拓を進める。
(2) 海外事業
海外事業では、「グローバルパートナー戦略」を掲げ、魚肉たんぱくの健康性・環境性の訴求とブランド戦略を軸に、持続可能な海外成長基盤の構築を目指す。新たにグローバルトレード室を設置して輸出入体制を拡充し、国内工場からの魚肉たんぱく食品の輸出を強化するほか、インドネシアのIKFやタイのSmile Heart Foodsとのネットワークを活用する。現地パートナーとの連携を強化するとともに、海外拠点の収益性改善を進め、国内・海外の生産拠点や販売網を組み合わせた事業展開を加速する。なお、北米・中国・台湾を「重点エリア」に設定している。カニかまを中心とした認知の広がりに加え、市場としての成長余力があること、日本食レストランが相応の規模で既に存在しており、業務用の開拓余地が大きいことなどが選定の背景にある。
(3) きのこ事業
きのこ事業では、収益基盤の再構築を最優先課題とし、損失からの脱却と新たな成長領域への展開を目指す。まいたけの健康機能に関する価値訴求を強め、「一正ブランド」の確立を進めるとともに、希少性の高い有機まいたけなど付加価値商品の拡大を図る。生産面ではエネルギーマネジメントの強化や合理化・省力化投資を通じてコスト構造改革を進め、安定栽培と生産効率向上による収益基盤の安定化を目指す。また、菌類研究を活用した知的財産戦略や産学共同研究を進め、既存の枠にとどまらない新たな収益源の育成にも取り組む。
(4) 経営基盤強化
経営基盤強化では、2027年7月1日を目途とするホールディングス体制への移行を通じて、グループ経営の高度化と企業価値の最大化を図る。併せて、商号を「一正ホールディングス株式会社」に変更する予定だ。グループ全体の経営資源を最適配分し、成長投資への重点的な資源配分や機動的・柔軟な意思決定、リスク管理・サステナビリティ推進体制の強化を進める。また、人的資本経営では、エンゲージメント向上や人財育成・キャリア支援のほか、誰もが挑戦できる企業風土の醸成を通じて、働きがいと成長機会を両立させる自律型組織への転換を進める。DXでは、生産現場やバックオフィスの業務効率化、データ統合基盤の構築による経営状況の可視化、AI活用による定型業務から創造的業務への人的資源シフトなどを進め、データドリブン経営による意思決定スピードの向上を目指す。
(5) サステナビリティ・人的資本
第三次中期経営計画の策定に合わせてESGマテリアリティを更新し、「人的資本経営」「おいしさと新たな食の価値提供」「サステナブルな食のバリューチェーン」「経営基盤の強化」の4項目15課題に再整理した。人的資本経営では、「社員が働きやすく、働きがいを持ち、人と組織が共に成長し合う企業」を基本方針とし、IWS(いちまさワークスタイル)の実現を通じてエンゲージメント向上を図る。また、環境面では2030年までにScope1・2のCO2排出量を2013年比50%削減する目標を掲げ、太陽光発電設備や再生可能エネルギー由来電力への切り替えを進めるほか、Scope3についても環境配慮型素材への転換、省資源・リサイクル、取引先との協働などを推進する。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 若杉 孝)
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