池田教授「近いうちに、働いて稼ぐのが善ではない未来が来る」

 

食うために働けという言説は、時代時代の権力者に都合のいいように言い換えられ、「主君のために」「みんなのために」「会社のために」「家族のために」「自分のために」と様々なバージョンを生み出し、ついには「グローバル・キャピタリズムの存続にために」というところに辿り着いたが、そこに通底するのは「権力者のために働けという愚にもつかない妄想である。

グローバル・キャピタリズムが存続するためには、安い労働力が提供され続けることと、生産コストよりも高く買ってくれる消費者が増え続けることが必須である。だから少子化を問題視しているのは権力者とその走狗である御用言論人であって、多くの一般国民は子供を作りたくない人は作らなくてもいいよと思っているに違いない。しかし、近未来にAIが多くの単純労働を肩代わりできるようになると、この構図は全く違ったものとなると思う。

ベーシックインカムの制度化はあるのか

近未来にAIによる労働コストが極めて安価になると、安い労働力は不要になる。労働者は基本的に要らなくなるので、この観点からは人口が増える必要は全くない。しかし、一方で人口が減ると消費者数も減少するので、物を作っても誰に売りつけるかが問題になる。さらに大きな問題は、ある程度の人口があっても、ほとんど働かずにお金を稼いでいないとなると、物を買いたくとも買えないという話になる。

そうなった時に社会はどうなるのだろう。一つ目の可能性はベーシックインカムが制度化されて、人々は働かなくとも収入が保証されるようになることだ。こうなると、個人はお金を使ってものを消費するために存在することになり、働いて金を稼ぐのは善というイデオロギーにコペルニクス的転回が起こることになる。お金を使って物を買わないと経済が回らないので、ベーシックインカムで支給された金額の半分以下しか使わないときは、ペナルティが課されるようになるかもしれない。

二つ目の可能性は、労働力として役に立たない人は存在する価値がないという旧来のイデオロギーを死守する権力が、ベーシックインカムなどでこの人たちの生存を保証せずに見捨ててしまうことだ。自給自足の人が増えてくる、不妊手術をした人だけにベーシックインカムを保証して長期的には役立たずの一般人を抹殺する、暴動が起きる、といった様々なバージョンが考えられるが、詳述するには紙幅が足りない。いずれ稿を改めて論じたい。

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