話が逸れてしまったので、本題に戻します。その『ドライブ・マイ・カー』の13年ぶりに日本作品で国際映画賞受賞という快挙さえ霞むくらい、話題を持っていってしまったのが、表題の「ウィル・スミスのビンタ」です。
知らない人は少ないと思いますが、いちおう概要に触れると、長編ドキュメンタリー部門のプレゼンターとして舞台に立ったコメディアンのクリス・ロックが、最前列に座っていたジェイダ・ビンケットに「『G.I.ジェーン』の続編を楽しみにしているよ」とジョークを言ったことがきっけけでした。
『G.I.ジェーン』は90年代のデミ・ムーア主演の映画。劇中、デミがバリカンで自らの長髪を丸坊主にするシーンが話題になった女性海兵隊員の物語です。
で、ジェイダは脱毛症の為、極端に短髪です。病気をイジったジョークをクリスは言ったわけです。それを聞いた旦那のウィルは壇上まで上がり、クリスに歩み寄り、いきなりビンタ。テレビの前の僕まで吹っ飛びそうな、スナップの効いた、切れ味するどい平手打ちでした。
とはいえ、あまりに急な展開の出来事だったので、会場も、そしてテレビの前の僕も、一瞬、何があったかわからない状況でした。
事実、直前までウィルは笑っていたし、平手打ち直後も会場は笑いのような声も上がっていた。人間の正直な反応なのだと思います。
コメディアンがジョークを言って、笑い声、ジョーク、笑い声、ジョーク、笑い声の、慣性の法則のようなものか、ビンタ、笑い声、みたいな流れでもありました。
そして、なにより二人は仲良しであることも有名でした。もともとコメディアン出身のウィルは誰よりも「笑い」を理解していた。こういった場でのジョークに誰より寛容なイメージもありました。(事実、そのあと、コメディアン時代に、脱毛症を揶揄したジョーク映像が出てきてSNSで拡散されたりもしています)
直後、席に戻った、ウィルの「妻の・名前を・F○○○(Fワード)・口にするな!」といった怒号で、会場もそこで我にかえったように、あ、マジなんだ、と悟った様子でした。おそらく向こう100年は語り継がれるアカデミー賞授賞式史上最大の「珍事件」と言えるかもしれません。
翌日のネットの話題は、この件でもちきりでした。肝心の受賞作品、受賞者の話題以上に。
で、僕個人が今回の件で、なにより興味を引かれたのは、この件に対する日米間のあまりに大きな「見解の相違」でした。もうね、びっくりするくらい、両国間での反応は違いました。
日本ではー、おそらくここの読者も含め、圧倒的…、とは言わずとも、多数派なのは「ウィル・スミス擁護派」なのではないでしょうか。
実は、生中継を観ていた僕も一瞬、そう感じました。暴力はよくないけれど、全世界が見ている中、愛する妻を侮辱されたのだから、許せなくなる人情は理解できるー、と。
その時、横で一緒に観ていた妻が「いや、でも、アメリカでは絶対許される行為ではないと思うよ…」と呟きました。彼女は僕よりも10年以上この国に長く住んでいます。
僕自身も、許される行為とは思っていない。だとして、心情的にウィルに肩入れする人は日本も、アメリカも多く出てくるのではないか、と思っていました。
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