世界戦略で右往左往
サムスンは、労せずして半導体技術を手に入れたが、今後の世界戦略はそのような簡単なものではない。
米中対立が鮮明になる中で、韓国の半導体を自陣営に引入れる綱引きが行なわれている。米国が「チップ4」(日本・韓国・台湾・米国)構想を打ち出しているからだ。
韓国は、これまで中国が最大の輸出先であることから、中国の呼びかけをむげに無視もできず心は千々に乱れている。だが、米韓という軍事同盟の建前から、米国の要請を断るわけにいかないのだ。
中国は、こういう韓国の迷いを突いている。
中国外交部の趙立堅報道官は7月19日、米国が韓国に「チップ4」を提案したことについて、「半導体産業は高度にグローバル化し、各国が分業して協力し、半導体技術の持続的な進歩をともに追求した」と答えた。同時に、「米国は一貫して自由貿易原則を標ぼうしつつも、国の力を乱用して科学技術と経済貿易問題を政治化・道具化・武器化して『脅迫外交』を繰り返している」と辛辣に批判した。
だが、半導体は戦略物資である。安全保障に重大な関わりを持つことから言えば、自由貿易の原則に縛られないことも事実だ。WTO(世界貿易機関)の係争において、安全保障による自由貿易ルールの規制は認められている。安全保障が、一国経済にとって最重要テーマになっていることを示唆するのだ。
中国の主張を敷衍(ふえん)すれば、ロシアのウクライナ侵攻は許されないことになる筈だ。いかなる理由によろうとも、他国侵略は国連精神に反する。中国は、そういう普遍的ルールをないがしろにするロシアを支持している。原則を尊重しない中国が、安全保障を無視する主張を行なっても、受け入れられる筈はない。
中国は、「チップ4」から排除されることを恐れている。
中国が、半導体の後進国である以上、なんとかして韓国を繋ぎ止めておきたい。そのために、前述のような「半導体産業は高度にグローバル化し、持続的な進歩をともに追求した」とあたかも、中国が半導体技術の発展へ貢献したかのごとき口吻である。現実は逆であって、技術窃取など「ただ乗り」してきたに過ぎないのだ。
ここで、世界の半導体金額シェア(2020年)を見ておきたい。
半導体全体 メモリー半導体
米国 50.8% 28.6%
韓国 18.4% 56.9%
日本 9.2% 8.7%
欧州 9.2% 0.8%
台湾 6.9% 4.2%
中国 4.8% 0.7%
出所:OMDIA2021
圧倒的な「チップ4」
上記のシェアを見れば、「チップ4」が圧倒的なシェアであることが分かる。
中国の付け入る余地はないように見える。韓国も、中国シェアの低さから見て、「韓国の敵でない」という判断であろう。
だが、中国は上述のように「ロウエンド」メモリー半導体の生産に特化する動きを見せている。この分野で、世界の生産基地を狙っている節が窺えるのだ。
中国は、半導体の国内自給率向上を目指し、新工場の建設で世界をリードしている。世界中の半導体メーカーは生産能力を増強し、供給不足を解消することに躍起となっているが、中国の拡大ペースは群を抜いて急ピッチである。