4. 米国債やMBSといったトリプルAでの資産運用でも破綻に繋がった
現在、米銀が抱えている最も大きな火種は商業用不動産への融資の焦げ付きだ。
※参考:Charlie Munger: US banks are ‘full of’ bad commercial property loans – Financial Times(2023年4月30日配信)
現在の多くの国々の経済問題の多くはコロナ対策に起因している。米国でも行動制限により、例えば、商業用不動産への需要は消滅した。その一方で、未曾有の資金が供給されたために、不動産デベロッパーたちは事業継続・生活維持のために商業用不動産の建設を続けた。貸出先が限定されていた銀行はそこへの融資を続けた。その結果、今、商業用不動産の在庫は大幅な余剰となっている。
現在、米国で4.5兆ドルの残高があるとされる商業用不動産への融資の約4割は銀行が行っている。商業用不動産市況の悪化は一部の銀行の危機につながりかねない。その一方で、銀行の危機は年内に4,000億ドル近い債務の返済期限、さらに2024年には約5000億ドルの債務が期限を迎える不動産デベロッパーの借り換えを不安定にさせる。それでなくても、借り入れコストの大幅な上昇と不動産価値の下落に直面している。つまり、一部の銀行と不動産デベロッパーたちは共倒れの危機にある。
また、商業用不動産への融資は、銀行に次いで、ファニーメイやフレディマックといった住宅金融公社、保険会社、証券化商品の順に大きい。多くの年金が不動産証券化商品のETFを購入しており、ここにも火種があると言える。
SVBなどは、そうした信用リスクを避け、米国債やMBSといったトリプルAの「安全資産」での運用を行っていた。それでも破綻に繋がったのだ。
5. SNSに煽られる取り付け騒ぎは今後も予想される
SVBは1日で預金の4割もの引出し要請に応えられずに破綻した。とはいえ、1日に4割もの引き出し要請に耐えられる銀行は皆無だと断言していい。
企業や個人相手の貸出資産の急な引き上げは不可能だ。仮に強制的に行うことができるとすれば、国や地域の経済が破綻する。また、証券運用で当日に現金化できるものはない。このことは、SVBだけでなく、どの銀行でも破綻していた可能性を意味している。
過去の取り付け騒ぎの象徴的なイメージは、銀行の前に預金者たちが集まって引き出し要請をするというものだ。長らく金融危機が続いているレバノンなどでは、厳しい引き出し制限を行うことで、多くの銀行が破綻を免れている。
一方、SVBの破綻はオンラインバンキング故に発生した。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは、「少数のベンチャーキャピタルがツイッターでSVBの3万5,000超の法人顧客を一斉に動かし、預金も一緒に動いてしまった」と指摘した。
2021年の時点で、米国の預金へのアクセスは、旧来の窓口とATMを合わせて3割強で、後の7割近くはデジタルバンキングなのだ。SVBは破綻前日の3月9日の時点で、サンフランシスコ連銀などに支援を要請したという。しかし、当局ですら急な要請には応えられなかったのだ。
そこで、前述4月17日付けのブログで私は、以下のような解決策を提案した。
必要なのは、市中銀行のハブとなり、中央銀行とも直結する「決済専門銀行」の設立だ。日本であれば、銀行間の資金のやり取りを仲立ちするブローカー(短資会社)の機能を大幅に拡充し、これまで以上に日本銀行との繋がりを強固にすることだ。
SNSの発展、オンラインバンキングへの流れを逆流させることができない以上、金融システムもそれに対応したものにする必要がある。また、厳罰の対象とすべきは、通常の経営を行って破綻した銀行の経営陣ではなく、「取り付け騒ぎの原因となったツイートを行った者たち」だ。次の破綻を防ぐには、厳罰の対象を間違えない必要がある。
私は少なくとも日銀や短資会社などが、「決済専門銀行」設立の方向を検討していると信じたい。SVBの破綻を個別行の問題だと考えているとすれば、次の危機は避けられないかと思う。
しかし、米当局はあくまで個別行の経営責任だとし、事の本質には(少なくとも表向きには)触れないままに、4行目が破綻した。