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トヨタの全方位戦略は成功なのか?EV戦争を静観する3つの理由。海外での評価も解説=佐々木悠

トヨタの全方位戦略とは何か?

全方位戦略とは「BEVだけでなく、ハイブリッドや水素燃料電池などの様々な脱CO2の自動車の生産に注力する」というものです。GMやホンダなどグローバル競合各社が、BEVの量産を目指しているのに対し、方向性が微妙に違うのです。

トヨタが全方位戦略を打ち出す理由は3つです。

<業界リーダーとしての視点>

頼るエネルギーを電気に一本化した時、仮に電気に何か問題が起きたらエネルギー安全保障をどう担保するのかを考えている。

<巨大自動車産業の雇用確保>

BEVは比較的構造が単純である事から、膨大な数の下請け企業と、そこで働く人たちを守るために、内燃エンジン型の脱CO2カーの可能性を追求している。

<地域を問わずカーボンニュートラルを実現>

アジアなど急速な電動化が難しい地域もある。実現可能で、社会インフラやエネルギー事情を考慮しながらカーボンニュートラルを実現し、地域ごとに異なる事情に応じそれぞれの解決策を提案する。

 

この戦略が、どのようにしてトヨタの持続可能な成長と、競争力を支えているかを考えます。

まずはBEVの潮流に乗り遅れないこと。特に今年の4月に社長が豊田章男氏から、エンジニア出身の佐藤恒治氏に交代して以降、BEV量産に向けた戦略をアピールしているように感じます。

一方でBEV以外に注目が集まった際に備えて、ハイブリッドや水素燃料電池などの開発にも力を入れているのです。

しかし、全方位戦略は「どっちつかずの戦略」と揶揄されることもあります。

トヨタはBEVで遅れている、という印象があるのは、このためかもしれません。実際、中国のBYDなどの企業は比較的低価格のBEVをすでに販売しています。しかし、トヨタにとってはBEVは未だ「未来のクルマ」感が否めません。

少なくとも日本では、日産の軽自動車のBEV(サクラ)が好調である中、トヨタのBEVが国内で好調である、というニュースは聞きません。

このように、BEVで遅れをとっているトヨタの全方位戦略ですが、逆に評価されている側面があります。それは、BEVの課題が意識されているためです。

BEVの課題がハイブリッド見直しの流れを生んでいる

実はBEVの利用と普及には2つの課題があります。

<1. コスパが悪い>

まず、BEVとHVの電池には大きな差があります。BEV電池は重く高価であり、HV車の電池に比べて加速性能や燃費に悪影響を与えます。

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出典:筆者撮影

従って、ガソリン車に比べて車体の値段が高いにも関わらず、移動距離が稼げず、充電による電気代もかかる、と言う意味でコスパがあまり良くない、と言えるのです。今後さらに電気代が上がれば、ランニングコストも増大します。値段が高い割に走行距離が短いという課題を、電池の研究開発でカバーできるかが鍵になります。

<2. 充電とCO2>

BEVが普及したとしても、充電スタンドの課題もあります。

都市部では充電ステーションが充実したとしても、地方や過疎地では充電設備が不足するリスク、高速充電器を使用しても、ガソリンを給油する時間に比べて充電には時間がかかかる可能性、充電ステーションの設置には高額なコストがかかること、これらがインフラ整備の進展を妨げる要因となっています。

一方でBEVが進んでいるドイツでは、路上充電が普及しています。しかし、例えば日本では路上充電=路上駐車となるため、普及しづらいでしょう。地域・文化的な違いからBEVが普及しづらい現状もあるのです。

また、結局電力発電時のCO2があるため、そこまで環境に優しくない、という話もあります。

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出典:日刊自動車新聞

これでは、そもそもエコなのか?と言う疑問も湧いてきます。停電のリスクなども踏まえると、BEVを使うことに課題が湧いてくることも頷けます。

このように、BEV普及には課題があることから、ハイブリッド車の見直しが進んでいるのです。BEV全集中、と言う訳ではないトヨタが、結果的に評価される局面に来ているのです。

Next: アメリカ、中国、東南アジア…地域ごとのトヨタの戦略とは?

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