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中国、2035年には「年金亡国」へ。60歳定年と高い所得代替率が命取り、“体制維持”優先の政策に限界が来ている=勝又壽良

定年60歳が襲う国家悲劇

習近平氏は、国家主席就任時から経済よりも中国共産党を重視する姿勢である。この基本的なスタンスは変わらず現在、共産党政権維持に全神経を集中させている。

そのメルクマークが「財政赤字削減」である。国難ともいうべき不動産バブル崩壊時でさえ、「財政赤字」に拘っている。これが、中国経済の回復を遅らせ体力を消耗させる主因だ。

事態はこれだけでない。年金財政の窮迫が目前に迫っていることに気づくべきである。ここで、潜在成長力をさらに低下させれば、年金を満足に支払えない「国民的悲劇」が待ち構えているのだ。

中国の定年は、男性60歳・女性55歳(一部は60歳)である。高齢者の定義は60歳以上である。年金支給開始も60歳だ。国際的にみた定年は65歳以上だが、中国だけは特別に短い。革命当時の健康状態が悪かったからだ。これによって現在、労働力不足に直面しながら定年延長できない状況である。国民の低い勤労意欲と、後述の7割という高い「年金所得代替率」のもたらした結果である。

こうして、中国では「早く定年を迎えて楽をしたい」という意欲が極めて強い。習近平国家主席の巨大権力を持ってしてもいかんともし難いのである。強引に定年を延長すれば、「大衆蜂起」が起こり兼ねないほどだ。習氏にとっては、「弁慶の泣き所」となっている。習氏は実際、大衆運動を恐れている。国民監視を強めている理由である。

中国人口に占める高齢者(60歳以上)割合は、現在20%ほどである。この比率は、中国がすでに国際社会が定義する「超高齢社会」(65歳以上人口の占める比率が21%以上)と同じ状況にあることを示している。日本が、超高齢社会へ移行したのは2007年である。中国もすでにこの状況にあることが、中国の年金財政を考える上で極めて重要なポイントになる。

年金支給は現役所得の7割

次のデータは、国際社会が高齢者を65歳以上と規定している尺度を中国に当てはめたものだ。

   高齢化社会  高齢社会   超高齢社会
中国 2001年  2021年  2034年
日本 1970年  1994年  2007年

これによると、中国は2034年に超高齢社会(65歳以上の人口比21%以上)へ移行する予測であった。だが、中国の退職年齢が60歳であるので、前記データは中国にあてはまらず、実際は2024年に繰り上がっている。これが、中国にとって大きな財政負担になるのだ。

世界では広く認識されていないが、中国の「年金所得代替率」(税引き前)は、桁外れに高いことだ。年金支給率が、現役時代の給与の7割も支給されている。

年金所得代替率(税引き前:2020年)
中国  71.60%
米国  39.20%
日本  32.40%
韓国  31.20%
出所:OECD

中国の年金所得代替率が、群れを抜いて高いのはそれ自体、正しいことである。だが、これが退職年齢引き上げの障害になっている。中国では、少子高齢化が急速に進んで労働力不足状態である。これを緩和するには、退職年齢引き上げしか方法がないのだ。

一方で、現役時代の所得に対して7割も年金が支給されれば、定年延長引き上げは困難だ。ただ、中国の年金は賦課方式である。現役世代の負担によって、年金が維持されていることを考えれば、大局的見地から退職年齢引き上げは必要なことも事実である。この論理が、中国では通用しないのだ。

Next: 財政赤字に転落するのは2035年…台湾侵攻の経済力もなくなっていく

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