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中国、2035年には「年金亡国」へ。60歳定年と高い所得代替率が命取り、“体制維持”優先の政策に限界が来ている=勝又壽良

中国経済の復活には財政出動が不可欠だが、習近平は体制維持のために財政赤字を増やさない政策に固執している。それでも膨れ上がる年金によって、2035年には財政赤字に陥るだろう。「年金亡国」となる日が着々と近づいている。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)

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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

中国経済にも「失われた30年」が来る?

中国経済最大の課題は、不動産バブル崩壊による後遺症(過剰債務)処理をいかに早めるか、である。これによって、将来の経済成長への道筋が描けるからだ。

だが、習近平国家主席は財政赤字を増やさず、金融緩和で凌ごうという「緩い」姿勢である。

日本が「失われた30年」を余儀なくされたのは、不良債権処理に手間取ったからである。1990年、年頭に株価が暴落し、秋頃から不動産相場の下落を誘発した。当時の日本政府には、バブル崩壊という認識がゼロであり、国債増発で克服できるというケインズ主義の亡霊に取り憑かれていた。

結局2005年、小泉政権によって不良債権整理が完了した。この間、日本は15年にわたって時間を空費したのである。

財政出動が再建のカギ握る

中国は、こういう日本の誤りを繰り返そうとしている。相変わらずのインフラ投資で、地方経済のテコ入れを図り、不良債権処理は金融機関に任せるという微温的な姿勢である。

中国の抱える債務総額は、当時の日本を大幅に上回る350兆円(隠れ債務を含む)にも達する勢いだ。特に、地方政府の財政困窮が激しくなっている。自力での財政再建が不可能な事態である。中央政府が、財政赤字拡大を覚悟して支援強化しない限り、立ち直りは困難な状況だ。

地方政府の財政困窮は、住宅販売の長期不振が理由である。住宅が売れなければ、新規の建設用地売却チャンスがないからだ。この土地売却収益が、地方政府歳入の3~4割も占める異常な財政状態にある。固定資産税(不動産税)も相続税も存在しない地方政府は、土地売却益なしに行政が成り立たない状況に陥っている。

この事態を救うには、未完成住宅の工事を再開させて、市民に対して安心感を取戻させることである。これが、政府への信頼感を繋ぎ止め、個人消費を増やす糸口になるのだ。この「迂回コース」の重要性が、習氏に分からないのだ。

習氏は、財政赤字を増やさない政策が、共産党政権の命脈を保つ上に必要と信じきっている。経済成長よりも、赤字を増やさないことによる体制維持が不可欠という信念である。

元世界銀行総裁のロバート・ゼーリック氏は、習近平氏について貴重な証言をしている。「(私が)世銀総裁を退く2012年に彼(習氏)は総書記になった。当時、私は習氏に『あなたの経済的優先事項は何ですか』と聞いた。答えは『8,660万人の共産党員』だった。多くの世界の指導者と話したが、経済の計画を聞かれ党員数を答えた人はいなかった。彼が目指したのは共産党の強化で、経済は重視していなかった」(『日本経済新聞 電子版』1月7日付)。

習氏はここまで、共産党体制維持が最大の目的になっている以上、経済成長率が低下しようとお構いなく、がむしゃらに財政赤字拡大を阻止することに政治生命を賭けるであろう。

こうなると、中国経済の成長率はこれから予想以上に低下するリスクが高まる。これは、「諸刃の剣」である。中国が、60歳定年(国際的には65歳定年)であることから、すでに「超高齢社会」へ突入しようとしている事実だ。年金負担が、一挙に高まることによって「年金亡国」という重い足かせが迫っている。詳細は、後で論じる予定だ。

習氏は、こういう現実を棚上げして顧みようとしないのだろう。潜在成長率一杯の経済成長率を維持することが、「年金亡国」を阻止する上にも不可欠である。それには、不動産バブル崩壊の後遺症(過剰債務)処理を早めなければならない。過剰債務を「凍結」していたのでは、後手に回るのだ。

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