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10年足踏み「パナソニック」株は今が買い?シャープや東芝と同じ轍を踏む?家電メーカーの勝ち組・負け組の差=栫井駿介

不安定な「車載電池」

パナソニックの将来戦略において、テスラ向け車載電池事業は重要な柱として位置付けられています。しかし、この分野での展望は決して楽観視できるものではありません。

まず、競争環境の激化が挙げられます。特に中国のCATL(寧徳時代新能源科技)は、急速な技術革新と生産能力の拡大により、グローバル市場でのシェアを急速に拡大しています。CATLの2023年の世界シェアは36.8%に達し、パナソニックの6.4%を大きく引き離しています。

さらに、パナソニックの車載電池事業の収益性は、特定の要因に大きく依存しています。その一つがテスラとの関係です。テスラは自社での電池生産を増やしており、パナソニックへの依存度を徐々に下げる可能性があります。また、2022年に施行された米国のインフレ抑制法(IRA)による補助金制度が、パナソニックの収益を下支えしている面は否定できません。

こうした状況は、パナソニックの車載電池事業が外部要因に左右されやすい、脆弱な構造にあることを示唆しています。テスラの事業戦略の変更や、米国の政策変更といった要因によって、事業の収益性が大きく変動するリスクがあります。

したがって、パナソニックにとっては、特定の顧客や政策に過度に依存しない、より強固で多様な事業基盤の構築が急務となっています。技術革新を加速させ、新規顧客の開拓や用途の多様化を進めるとともに、コスト競争力の強化も不可欠です。車載電池事業を真の成長エンジンとするためには、これらの課題に対する戦略的かつ迅速な対応が求められているのです。

「買おう」とはなりにくい…

投資家の観点からパナソニックの現状を評価すると、同社への投資には慎重にならざるを得ません。

過去10年間の業績推移を見ると、業績は停滞し、株価推移も市場平均を大きく下回っています。さらに、PBR(株価純資産倍率)は1倍を割り込む水準で推移しており、市場が同社の将来性に懐疑的な見方をしていることを示唆しています。

成長戦略の面でも、明確な方向性が見えないのが現状です。車載電池事業に注力する姿勢は見られますが、競争激化や特定顧客への依存など、リスク要因も多く存在します。従来の家電事業においても、イノベーションの停滞や収益性の低さが指摘されています。

さらに、組織構造の問題も深刻です。2022年4月に導入された持株会社制は、各事業の自主性を高めることを目的としていますが、同時にグループ全体としての一貫した戦略の実行を困難にする可能性もあります。また、人材流出の問題も無視できません。優秀な若手社員の離職は、長期的な競争力の維持に大きな影響を与える可能性があります。

パナソニック<6752>週足(SBI証券提供)

パナソニック<6752>週足(SBI証券提供)

これらの要因を総合的に判断すると、現時点でのパナソニックへの投資は期待値が小さいと言わざるを得ません。同社が抜本的な改革を実行し、明確な成長戦略を示すまでは、投資家としては様子見の姿勢を取るのが賢明でしょう。パナソニックには長年培ってきた技術力とブランド力という強みがありますが、これらを活かした事業構造の転換と、持続可能な成長モデルの構築が急務となっています。

今後、経営陣がこれらの課題にどのように取り組み、具体的な成果を示していくかを注視する必要があります。真の意味での構造改革と成長戦略の明確化が見られるまでは、投資判断を保留するのが適切だと考えられます。


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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2024年9月11日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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